最新記事

スウェーデン

コロナ独自路線のスウェーデンが失敗、欠けていたのはロックダウンではなく......

2020年12月22日(火)18時15分
カールヨハン・カールソン

ロックダウンはしない(11月10日、首都ストックホルムのショッピング街で) FREDRIK SANDBERG-TT NEWS AGENCY-REUTERS

<スウェーデン政府による国民への「望ましい行動」の勧告がコロナ対策として不十分だった──という批判は的外れではないが>

独自の新型コロナウイルス対策で世界的な注目を集めてきたスウェーデンが、ついに方針を転換した。これまでスウェーデン政府はロックダウン(都市封鎖)を避けて、強制措置ではなく、「望ましい行動」を国民に勧告することでコロナ禍を乗り切ろうとしてきた。

ところが11月に入ると、感染の再拡大を受けて商業活動の禁止措置を発表。レストランやバーの営業時間を午後10時30分までに制限した。

この結果、国民への勧告だけでは感染拡大を防げないことがはっきりした──スウェーデンの新型コロナ対策に批判的な国外の論者は、そう考えている。

そうした批判は的外れとは言えない。実際、スウェーデン国民は、政府の指針を守ってこなかった。人口1000万人の国で死者が約8000人に上っても、人々はいまだに混雑したショッピングモールで買い物をし、バーで互いに密接して過ごしている。

そもそも、政府が強制措置を導入したくても権限がないという問題もあった。2020年4月、議会は政府にレストラン、ショッピングモール、スポーツジム、公共交通機関を閉鎖させる権限を期限付きで与えたが、この法律は一度も使われずに6月に失効した。その際、政府は法律の延長を求めなかった。集団免疫により、感染第2波は防げると考えていたからだ。

しかし、スウェーデンのコロナ対策に本当に欠けていたのは、強制措置ではなく、明確な方針だった。

2020年2月に感染拡大が始まったとき、疫学者のアンデシュ・テグネルが主導する公衆衛生庁は、国民に明確な指針を示すことの重要性を強調していた。それにより、一人一人が責任ある行動を取りつつ、日々の生活を続けられるようにし、経済活動の停滞を避けたいと考えたのだ。

ただ実際には、政府が国民に示す指針に問題があったため、指針が十分に守られなかった。まず、買い物や食事の仕方に始まり、教会での礼拝の形式に至るまで、ガイドラインの数があまりに多過ぎた。

マスクに関する指針の混乱もあった。公衆衛生庁は当初、あらゆる場におけるマスク着用を求めず、公共交通機関など一部の場では有効である「可能性がある」と述べるにとどまった。その際も、マスク着用により「誤った安心感」を抱けば逆効果になりかねないとクギを刺していた。しかし、政府は12月18日、混雑時の公共交通機関でマスク着用を推奨する方針に転換した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中