最新記事

温暖化否定論

森林火災で変わるか、温暖化否定のオーストラリア

Australians Are Ready to Break Out of the Cycle of Climate Change Denial

2020年1月17日(金)18時00分
ケタン・ジョシ(気候変動専門家)

未曽有の森林火災に手も足も出ず、今までの温暖化無策を批判されているモリソン首相。他国の指導者にとってもいずれ他人事ではなくなる?  AAP Image/James Ross/REUTER

<史上最悪の被害をもたらしている森林火災は「温暖化否定」と「災害」の悪循環を脱却する契機にすべきだ>

オーストラリアは誤解されやすい国だ。黙示録的な様相を呈する大規模な森林火災にも、温暖化をあまりに長い間否定してきた報い、というイメージが付きまとう。しかし、未曽有の大規模火災の被害を受けて国民は悲しみに暮れており、変化の兆しも見え始めている。

国際社会からみると、オーストラリアは、温暖化を否定してはその被害に苦しむという悪循環に陥った国と映ってきた。米アトランティック誌のロビンソン・メイヤー記者は、「オーストラリアは都市や町が森林火災の噴煙にまみれているのに、これまで以上に石炭に執着している」と指摘。一度痛い思いをしたぐらいで石炭への依存を断つことは、あまり期待できそうにない。

これは国内のメディアの論調が単一化されているからだ、と批判する声もある。オーストラリアでは右寄りの報道機関が幅を利かせており、どの都市でもニューズ・コーポレーション発行の新聞が最も多くの購読者を誇る。同じニューズ傘下でもNews.com.auのようなオンラインメディアはやや進歩的だが、ストレートニュースもブログも、右寄りで政治色の強い論調は基本的に変わらない。著名ジャーナリストのテリー・マックランやティム・ブレアは連日、温暖化政策や研究報告などについて生半可な根拠のブログを投稿している。シドニーの駅に足を踏み入れれば、右派コラムニスト、アンドリュー・ボルトが「気候変動の嘘」を暴く番組の宣伝が目に飛び込んでくる。

モリソン首相の火災への対応と批判する国民

偏向報道と偏向した権力層

こうしたメディアコンテンツが提供されているのは、当然それを求める読者がいるからだと思うだろう。だが調査によればオーストラリアの一般市民の大半は温暖化を信じており、温暖化を否定するニュースをわざわざ消費しているとは考えにくい。

オーストラリアのメディア事情は特殊で、特定のメディアが政治に過度な影響力を持っている。ニューズ・コーポレーション傘下のスカイニュースは、一般市民はほとんど視聴していないのに、財界の大物や政治家が多く利用するカンタス航空の空港ラウンジではスカイニュースばかり流れている。首都キャンベラにある連邦議会議事堂で議員たちが見ているのもスカイニュースだ。権力と影響力を持つ視聴者が、この局に偏っているのだ。

このスカイニュースは、ソーシャルメディア上に幾つかの奇妙な動画を投稿している。ある動画では、極右のラジオパーソナリティーであるアラン・ジョーンズが、オーストラリアの温室効果ガス排出量について異説を展開。約2キロの米をボウルに入れ、「これが世界全体の排出量だとすれば、このうちオーストラリアの排出量はせいぜい数粒分」だと主張する。テレビ史上最も嘆かわしい2分間だ。


「ビジネス占星術師」を名乗る人物に、温暖化は嘘だと解説させる番組もあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中