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台湾総統選

日本も見習え──台湾はいかにポピュリズムを撃退したか

Taiwan’s Voters Show How to Beat Populism

2020年1月14日(火)19時15分
レブ・ナックマン

選挙結果からもう1つわかるのは、有権者は候補者・韓を拒絶したのであって、国民党を拒絶したのではないということだ。比例区での投票結果を見ると、民進党と国民党の得票率はそれぞれ34%と33%で、ほとんど変わらない。それにもかかわらず総統選では蔡が圧勝したということは、親中派の有権者層が国民党は支持しても韓を支持しなかったとを意味している。それと裏返しで、「台湾独立」を掲げる民進党・本省人(1945年以前から台湾に住んでいた人々)を中心とした泛緑連盟は、総統候補としての蔡を支持はしたが、民進党はさほど支持しなかった。

大事なのは、ポピュリスト候補と直面したとき、台湾の有権者は単に家に留まらなかったということだ。トランプが大々的なポピュリスト戦略を取った2016年の米大統領選で、米有権者の投票率が2015年と大して変わらなかったことや、2019年のイギリスでジョンソン率いる保守党が勝利したときの投票率が実質2017年より低かったことと比べれば大きな違いだ。台湾の若者ははるかに活発だった。結局、韓は民進党にとって彼らを動員しやすい標的だった。

だが、韓と彼のポピュリズムは消滅したわけではない。彼は高雄市に戻り、市長としての職権を振いつつ支持層の開拓に努めるだろう。「一つの中国」を掲げる国民党・外省人(1945年以後に台湾に移住した人々)を中心とした泛藍連盟は、今も韓を支持する有権者500万人を擁している。韓が今後も人気を維持できるか、国民党がそれをどう扱うかによって、台湾の反ポピュリズム戦争の帰趨が決まる。

(著者レブ・ナックマンはカリフォルニア大学アーバイン校の政治学博士課程)

From Foreign Policy Magazine

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