最新記事

分離独立

スコットランド独立を占うカタルーニャの教訓

How to Succeed at Seceding

2020年1月10日(金)17時30分
マーク・ネイラー(スペイン在住ジャーナリスト)

スコットランドでは2014年の住民投票以降ずっと、独立賛成派は45%前後で推移してきた。だがイギリスのEU離脱が決まった以上、もう一度住民投票が行われれば独立派が過半数を取る可能性は十分にある。ブレグジットをめぐる騒動でスコットランド経済が被った損失は既に30億ポンドに達するとの試算もある。

12月の総選挙でのSNPの大躍進後、スタージョンはこう述べた。「ボリス・ジョンソンにはイギリスをEUから離脱させる権限はあるが、スコットランドをEUから離脱させる権限は断じてない」

スタージョンの主張は、カタルーニャの分離独立を目指すキム・トラ州首相を彷彿とさせる(両者は2018年7月にエディンバラで会談した)。「これはジョンソンや英政府の政治家に許可を求める話ではない。スコットランドの人民が自らの未来を自ら決める民主的権利の主張だ」と、スタージョンは勝利宣言で語った。

住民投票を認めるのも手

カタルーニャの分離独立派が近年強く求めているのも、自治を行使する権利だ。2019年10月の最高裁判決を受け、トラは「カタルーニャの自己決定の権利を守るために戦い続ける」と語り、目下の憲法危機を脱するには合法的な住民投票が最善の策だと主張した。ただし、カタルーニャ住民を対象とした最近の世論調査では、分離独立派が41.9%にとどまり、残留派が48.8%と支持を伸ばしている。

スコットランドにもカタルーニャにも一定の自治は認められているが、強硬な分離独立派が望む水準には程遠い。SNPへの対応に苦慮する英政府にスペイン政府が伝授できる教訓があるならば、相手の要求を無視し強引な手法で独立を阻止しようとしてもうまくいかない、ということだ。

中央政府にカタルーニャの独立を容認する政権が誕生する可能性はまずない。となると独立派が望むのは、柔軟な憲法解釈によって合法的な住民投票を認めてくれる中央政府の誕生という、同じく実現可能性の極めて低いシナリオだ。ただし中央政府にとっては大きな賭けとはいえ、残留派が勝ってこの論争にひとまず終止符が打たれるなら、試す価値はあるかもしれない。

残留派がスペイン国民の「永続的な統一性」を掲げる一方、分離独立派は自治の権利と「政治的共存」を主張する。憲法が保障する2つの矛盾した主張のバランスをどう取るべきか、スペインの憲法危機に出口は見えない。

自らの未来を自ら決めるスコットランドの権利をジョンソンが認めなければ、イギリスにもスペインと同じ混乱が訪れるかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年1月14日号掲載>

【参考記事】「スコットランド独立」は得策か
【参考記事】二つのナショナリズムがぶつかるスコットランド──分離独立問題の再燃

20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:業界再編主導へ、「どう統合起こすか常

ビジネス

バフェット氏、傘下鉄道会社BNSFによるCSX買収

ワールド

トランプ米大統領、シカゴに部隊派遣の可能性否定せず

ワールド

トランプ氏、韓国大統領と会談 金正恩氏と年内会談望
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中