最新記事

分離独立

スコットランド独立を占うカタルーニャの教訓

How to Succeed at Seceding

2020年1月10日(金)17時30分
マーク・ネイラー(スペイン在住ジャーナリスト)

共に独立を求めるカタルーニャの旗を掲げて連帯を示すスコットランドの人たち Russell Cheyne-REUTERS

<ジョンソンが進めるEU離脱を前に、イギリスからの独立を目指すスコットランドがスペイン・カタルーニャの先例から学べること>

2019年12月12日の英総選挙でEU離脱を推し進める与党・保守党のボリス・ジョンソン首相が地滑り的勝利を収め、今度は「イギリスからの離脱」を求める声が勢いを増している。イギリスからの独立をめぐり、過去には住民投票を実施したこともあるスコットランドで、だ。

2014年9月、スコットランドはイギリスからの独立の是非を問う住民投票を行った。当時はイギリス残留支持が55%と、独立派の45%を上回ったが、EU離脱を前にこの状況に変化が見え始めている。

イギリスが2016年にEU離脱を問う国民投票を実施した当時から、スコットランド人の多数派はEU離脱に反対だ。2016年の投票では、イギリス国民全体の52%が離脱支持に回るなか、スコットランド人の62%がEU残留を選択。そして昨年12月の英総選挙では、EU離脱反対を掲げるスコットランド民族党(SNP)が前回より13議席増の48議席を得て、英議会の第3党に躍り出た。

SNPのニコラ・スタージョン党首はスコットランド独立の是非を問う2回目の住民投票実施を総選挙の公約に掲げており、実施に反対するジョンソンに異議を唱えている。

ジョンソンの現在の立場は、スペインのペドロ・サンチェス首相のそれに近い。スペイン北東部のカタルーニャ自治州ではスペインからの分離独立を求める声が高まっており、独立の是非を問う住民投票を認めないスペイン政府との間で分断が進んでいる。

実際のところ、カタルーニャでは過去に2回の投票が行われてきたが、両方ともスペイン司法当局から無効とされた。1度目は2014年11月にカタルーニャ自治州のアルトゥール・マス首相(当時)が実施し、独立賛成派が圧勝したものの、マスは2年の公務禁止と3万6500ユーロの罰金刑を科せられた。後継のカルラス・プッチダモン自治州首相も2017年10月に住民投票を実施。投票率43%の中、92%が離脱支持に投じた。

だが、スペイン中央政府で保守派の与党・国民党を率いるマリアノ・ラホイ首相(当時)は迅速かつ手荒な「報復」に出た。ラホイは、自治州が「スペインの公益を著しく損なうような行動を取る」場合、中央政府が自治権を停止できると定めた憲法155条を発動し、ブッチダモンは逮捕を恐れてベルギーに逃亡。2019年10月には、2017年の住民投票の実施に関与したなどの罪で最高裁判所がカタルーニャ自治州幹部ら9人に対し、禁錮9~13年を言い渡した。

EU離脱の経済的損失

一方、イギリスで同様の事態が起きることは想像しにくい。1978年制定の憲法でスペイン国民の「永続的な統一性」が高らかにうたわれているスペインと違い、イギリスでは1998年制定のスコットランド法に基づき、英議会が認可すれば、独立についての住民投票が合法的に認められている。

だとすればなおさら、スコットランドは再び住民投票を行うのだろうか? ジョンソンは、2014年にイギリス残留を選んだスコットランドの住民投票の結果は「尊重されるべき」と発言しているが、イギリスのEU離脱を問う国民投票でスコットランド人が離脱にノーを突き付けたのはその後の2016年だ。そして昨年12月の総選挙では、与党・保守党はスコットランドでの13議席のうち7議席も失った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    男の子たちが「危ない遊び」を...シャワー中に外から…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中