最新記事

企業

プロが絶賛する極上の音色 世界最高級ピアノができるまで

2019年10月17日(木)15時34分
南 龍太(ジャーナリスト)

ピアノの外側「ケース」の製造工程(写真はすべて筆者提供)

<熟練の職人たちが長い時間と情熱を捧げることで、スタインウェイは世界最高峰のピアノであり続ける。その製作現場を訪ねた>

世界最高峰ブランドとして名高い「スタインウェイ&サンズ」(Steinway & Sons Inc.)のグランドピアノ。ニューヨーク市にある本社工場では長年腕を磨いてきた匠(たくみ)が1万2000に及ぶ部品の加工、組み立てを一つ一つ手作業でこなす。木材を削ったり、やすりを掛けたり、真剣な顔つきで黙々と作業をこなすも、完成までは約1年かかるという。1台1000万円から、最上級品は5000万円を超す名器の製作現場を訪ねた。

スタインウェイ氏が創業

スタインウェイのピアノは、ピアニストの間で知らない人はまずいないほど有名だ。コンサートピアニストの20人中19人が同社製のグランドピアノを選ぶ(同社調べ)とされ、「スタインウェイは私の知るピアノの中で最も万能な楽器です」(内田光子氏)、「コンサートでスタインウェイのピアノを弾くチャンスに恵まれ、大変嬉しく思っています。 スタインウェイのピアノは、すべてにおいて完璧です」(セルゲイ・ラフマニノフ氏)と高名なピアニストからも愛されている。

スタインウェイ&サンズは1853年創業、ドイツから移住したヘンリー・E・スタインウェイ氏がマンハッタン区のロフトを最初の作業場として、ピアノづくりに勤しんだ。1870年代に今の本社があるクイーンズ区に移り、一帯は企業城下町として栄えた。本社周辺から駅まで延びる約4キロの道はその名も「スタインウェイ通り」と呼ばれ、近くの駅にも「スタインウェイ」の名が冠されている。

職人たちが黙々と

191015mi2.jpg

クイーンズ区アストリアにある本社のエントランス


白が基調の瀟洒なエントランスを入ってすぐに受付がある。そこから社員の案内に従い、建物内の廊下をいくらか進むと、大型のガレージのようなシャッターが立ちはだかる。

それまでの静かで小ぎれいな社内の雰囲気とは一転、先には職人たちによる作業の音や機械音がこだまし、別世界が広がる。やすりや万力、糸のこぎりのような電動工作機など数多くの道具が備わり、さながら学校の図工室か技術室のようだ。

木の削りかすや粉塵が飛散する中、みなゴーグルを着用しての立ち仕事。ほとんどが男性だ。ある人は木材を黒く塗り、ある人は鉛筆で慎重に線を引いていた。5階建ての各フロアで、職人がそれぞれの仕事に黙々と取り組む姿が印象的だった。

191015mi3.jpg

作業場はまるで中学校の技術室

191015mi4.jpg

何やら緻密な計算をしつつ鉛筆で線を引く

191015mi5.jpg

弦の振動を伸びやかな響きに変える役割を果たす「響板」。職人が専用のはけで色を塗る
今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中