最新記事

遺伝子

中国「ヒトの遺伝子をサルの脳に移植、認知機能を改善させた」に批判が集まる

2019年4月16日(火)17時45分
松岡由希子

「類人猿のヒト化は害をもたらす」と警告moBDphoto -iStock

「ヒトの遺伝子をサルの脳に移植し、その認知機能を改善させることに成功した」という研究結果がこのほど中国で発表され、倫理性などの面から物議を醸している。

野生のサルに比べて短期記憶が良く、反応時間も短かった

中国科学院昆明動物研究所、米ノースカロライナ大学らの共同研究チームは、2019年3月27日、中国の科学誌「ナショナル・サイエンス・レビュー(NSR)」において、「ヒトの脳の発達において重要な役割を担うとされるマイクロセファリン(MCPH1)遺伝子の複製をアカゲザル11匹に移植したところ、野生のサルに比べて短期記憶が良く、反応時間も短かった」との研究論文を発表した。マイクロセファリン遺伝子が移植されたサルの脳は、ヒトの脳と同様、その発達速度が緩やかであることも確認されたという。

脳の大きさや認知機能は、進化の過程で最も著しく変化したヒトの特性だが、この変化の背景にある遺伝的メカニズムについてはまだ完全に解明されていない。

ヒトの脳の起源を明らかにしようとする第一歩との主張だが

研究チームでは、今回の研究結果を、サルにヒトの遺伝子を移植するという手法を用いてヒトの脳の起源を明らかにしようとする第一歩と位置づけ、中国紙「チャイナデイリー(中国日報)」の取材において「霊長類へのヒトの遺伝子の移植は、『何がヒトを特異にしているのか』という基本的な問いを解き明かすうえで重要な手がかりをもたらす可能性がある」とコメントしている。

ヒト以外の霊長類への遺伝子移植の是非については、長年議論されてきた。2011年9月には、米コロラド大学デンバー校の研究チームが「チンパンジーなどの類人猿はヒトと非常に近しいため、ヒトの脳の遺伝子を類人猿に移植するべきではない」との研究論文を発表している。

映画「猿の惑星」を引き合いに、「類人猿のヒト化は害をもたらす」

この研究論文の共同著者でもあるコロラド大学デンバー校のジェームズ・シカラ教授は、科学技術メディア「MITテクノロジーレビュー」の取材に対し、「脳の進化にまつわるヒトの遺伝子を研究する目的でヒトの遺伝子をサルに移植することは非常に危険だ」と中国での研究について強く非難した。同校のジャクリン・グローバー教授も、SF映画「猿の惑星」を引き合いに出し、「類人猿のヒト化は害をもたらす」と警告している。

中国では、2018年11月にも、中国出身の研究者が「ゲノム編集技術によって遺伝子を改変した受精卵から双子の女児を誕生させた」と公表し、中国内外から厳しい批判を受けた。今回の研究結果についても、様々な観点から議論を呼びそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%

ビジネス

日産、EV生産にギガキャスト27年度導入 銅不要モ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中