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麻薬戦争

幼稚園児にも反麻薬教育を 低年齢化、国際化が広がるフィリピン最新麻薬事情

2019年3月1日(金)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)


子供にも薬物汚染が広がっているフィリピン。高校生がマリファナ所持の容疑で逮捕されたことを伝える現地メディア ABS-CBN News / YouTube

麻薬対策「敵は身内に」とドゥテルテ

ドゥテルテ大統領は2月8日にレガスピー市で行った演説の中で、大統領就任後、3〜6カ月で麻薬問題を根絶させて解決できると思っていたことを明らかにした。

そのうえで「そうした私の考えは間違いだったことに気づいた。問題は相当に深刻な状態にあることがわかったのだ。なぜなら問題解決の敵は政府部内という身内にあったからだ」と述べた。

これは麻薬関連犯罪者をリストアップした際に多数の公務員が麻薬取引容疑者に名前を連ね、大量の麻薬が税関当局の摘発を意図的に素通りして麻薬市場に流れていることが判明したことなどを示している。

ドゥテルテ大統領は麻薬捜査に当たる警察官に対しても「麻薬に関連していた場合は厳罰に処す」など厳しい姿勢を示しているのも、警察組織の中にも麻薬関連犯罪に手を染めた警察官が少なからずいたためである。

中南米からのヘロインの中継拠点に

さらに麻薬対策を難しくしているのは、これまで東南アジアの麻薬ネットワークに組み込まれていたフィリピン。最近では中南米の麻薬組織との関連が新たに出てきたことで、国際的な麻薬ルートの中で東南アジアへの拠点としてフィリピンが利用される懸念が高まっている。

これは最近のフィリピンの麻薬摘発で主に主要な島の東海岸に打ち上げられたり、漂流しているレンガ状の梱包物からヘロインが相次いで発見、回収されていることから推察されている。

茶色のテープでぐるぐる巻きにされたレンガ状の「ブツ」の正体はヘロインで、フィリピン麻薬捜査局(PDEA)のアロン・アキノ捜査官によると中南米の麻薬組織が精製するヘロインに酷似した特殊な溶剤が使われているという。

麻薬組織は大型船舶で太平洋を経由してフィリピン東方沖に接近して、そこから小型船舶に積み替えたりしてフィリピン国内に持ち込んでいるようだ。発見されたヘロインは、フィリピン海軍や海上法執行機関、警察などに追跡されて海中に投棄したものとみられている。

ドゥテルテ大統領は2月25日、マニラ首都圏パサイ市での演説で「我われは今、重要な問題に直面している。南米コロンビアの"メデジン・カルテル"(の麻薬)がフィリピンに侵入している。だから国内でコカインが増加しているのだ」と述べ、中南米の麻薬組織のフィリピン進出を憂えた。

捜査当局やフィリピン麻薬取締局(PDEA)などによると、2月10日以降164.8kgのコカインが押収され、その市場価格は8700万ペソ(約1億8600万円)に上るという。また、2月23・24日の週末だけでフィリピンの太平洋に面した複数の島の東海岸で74個のレンガ状のコカインの梱包物を発見、回収したとしている。

PDEAではコロンビアのほかにメキシコの犯罪組織で麻薬カルテルでもある「シノロア・カルテル」からの麻薬流入の可能性もあるとしている。麻薬取締が強化され国内での精製、売買、使用が難しくなったことで、中南米の麻薬組織はフィリピンを東南アジア麻薬市場への中継拠点として「利用」していることが考えられるとして、国家警察ではPDEA、海上治安関係組織などと協力して水際対策を強化している。

ドゥテルテ大統領はフィリピンにおける麻薬問題は「国内の治安問題である」との立場を繰り返し表明し、麻薬問題への厳格な対処でその根絶を目指している。2月20日の新たな麻薬キャンペーン方針への署名に際してドゥテルテ大統領は「麻薬によって滅びる様な国になることは絶対に容認しない」とその固い決意を改めて表明、国民の理解と支持を求めた。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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