最新記事

麻薬戦争

幼稚園児にも反麻薬教育を 低年齢化、国際化が広がるフィリピン最新麻薬事情

2019年3月1日(金)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

昨年カリフォルニアから空輸されたおもちゃ箱に入っていた覚せい剤2キロ Romeo Ranoco - RETURE

<強硬な姿勢で麻薬対策を続けるフィリピンドゥテルテ大統領だが、より一層の取り締まり強化を発表した>

フィリピンのドゥテルテ大統領が2016年6月の大統領就任以来最重要政策の柱としている麻薬関連犯罪対策は、その当初から容疑者らへの司法手続きを無視した形の「超法規的殺人」が「人権無視」として国際社会や国内人権団体、キリスト教組織などから非難を浴びているが、一方で麻薬関連犯罪の抑止効果もあげ、国民からは依然として高い支持率を得ている。

そうした支持を背景にドゥテルテ大統領は最近、幼稚園児から高校生までの教育現場で反麻薬教育を導入する計画を明らかにするとともに、さらに厳格な取り締まりを関係当局に指示するなど相変わらずの強気の政策を続けている。

また「私の麻薬対策の最大の敵は身内の政府の中にある」などと指摘して麻薬犯罪の撲滅の難しさを嘆く一方で、中南米の国際的麻薬カルテルがフィリピンに進出しているとの見方を示して、麻薬戦争がより巧妙化、国際化しているとの認識を示した。

「麻薬対策にさらなる血を」

2月20日にドゥテルテ大統領は政府の麻薬対策強化の新たなキャンペーン方針に署名した。具体的にどのように麻薬対策が強化されるのかは明らかにされていないが、記者会見では「今後麻薬対策はより血塗られたものになるということか」という質問に対して、大統領は「そうなると思う」と応じたと現地メディアは伝えている。

ドゥテルテ大統領の就任以来、麻薬犯罪対策では「超法規殺人」が容認され、これまでの警察発表で約5000人が司法手続きなしに現場で殺害されている。
非公式には1万人以上が犠牲になっていると言われるが、警察側は「警察官や取締官の正当防衛の結果が多く含まれている」と釈明し、「超法規的殺人」自体を否定し続けている。

地元紙はまた世論調査で国民の約70%が周囲の麻薬所持者、麻薬常習者が減少したと答え、麻薬対策が地域コミュニティーに一定の成果を与えていることを報じている。

幼稚園児から高校生まで麻薬教育徹底を

麻薬犯罪対策の強化と同時にドゥテルテ大統領は2月10日、教育省と保健省などに対し、未成年の児童生徒に学校教育の現場で麻薬教育を徹底するよう指示したことを明らかにした。

現地からの報道等によるとドゥテルテ大統領による麻薬教育方針は対象が幼稚園児から高校3年生にあたる12学年までで、幼稚園や学校などの教育現場に麻薬捜査や麻薬問題などの専門家を派遣して実施する予定で、週に1回、17週間というカリキュラムで行うことを検討しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペインの極右政党ボックス、欧州議会選へ向け大規模

ワールド

イランのライシ大統領と外相が死亡と当局者、ヘリ墜落

ビジネス

欧州当局、モデルナのコロナワクチン特許有効と判断 

ワールド

頼清徳氏、台湾新総統に就任 中国メディアは「挑発的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中