最新記事

北朝鮮

「いじわる金正恩」のクリスマス禁止令

2017年12月22日(金)15時30分
ジョン・ハルティワンガー

金正恩にはクリスマスを目の敵にする理由がある。写真はかつて軍事境界線の南側にあったタワーと韓国のキリスト教徒たち(2010年) Jo Yong-Hak-REUTERS

<昨年からクリスマスを祝う行事を禁止した金正恩。建国の父・金日成を神格化して国民に国家への忠誠を誓わせるためにはキリスト教は都合が悪い>

アメリカの絵本『いじわるグリンチのクリスマス』に登場する全身が緑色の生き物グリンチは、人間とクリスマスが大嫌い――。ところが現実の世界にも、何とかしてクリスマスをつぶそうとする国家指導者がいる。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だ。

昨年、金正恩はクリスマスを祝う行事を公式に禁止し、その代わりに国を挙げて1919年12月24日に生まれた祖母の金正淑(キム・ジョンスク)の誕生日を祝賀する記念行事を行った。さらに韓国の情報機関、国家情報院によると、今年は集まって酒を飲んだり、歌を歌ったりする行為を禁止することで、クリスマス関連の行事も開催できないようにした。

金正恩のクリスマスつぶしは、北朝鮮の長年にわたる宗教、特にキリスト教信者に対する迫害の一環だ。北朝鮮の憲法では信教の自由が認められているものの、実際には宗教活動への参加に対してしばしば投獄などの処罰が下されている。

金日成が唯一の神

各国の宗教活動に関する米国務省の報告書では昨年、北朝鮮について「政府によって思想、良心、信教の自由の権利が否定され、多くの状況下で政府による人権侵害が人道に対する罪の域に達している」と、指摘している。

さらに「北朝鮮国外の宗教団体や人権団体からの多数の報告によれば、多くの地下教会のメンバーが信仰によって逮捕、暴行、拷問、殺害されている」と、報告書は述べている。

抑圧的な北朝鮮政府は、国民が国家に忠誠を誓い、金正恩の祖父で建国者とされる金日成ら最高指導者を崇拝することを望んでいる。

「北朝鮮のプロパガンダはまるで宗教だ」と、脱北者のカン・ジミンは14年7月に英紙ガーディアンへの寄稿の中で語っている。「政府のプロパガンダは、金日成思想を受け入れれば、肉体が死んだ後も政治的生命は不死である、と教示している。このために北朝鮮では金日成が唯一の神とされ、それによって人々の生命が奪われることもある」

こうした事情から、北朝鮮では特にキリスト教が忌避されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中