最新記事

米軍事

「核のボタン」をトランプは押せるか

2017年12月1日(金)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

仮に助言手続きを義務化しても、大した効果はなさそうだ。かつては軍人として核ミサイルを発射する側にいたが、今は核廃絶運動に尽力しているブルース・ブレアが筆者に語ったところでは、戦略軍の独立法務官たちは、大統領のいかなる核攻撃命令をも正当化できる法的論拠を山ほど用意している。

そのへんの事情はケーラーも認めた。戦略軍の用意した数々のシナリオの中から、大統領がどれかを選ぶのであれば、おそらく法的問題は生じないと彼は言った。戦略軍の公式シナリオである以上、法的問題は全て専門家によってクリアされているとみていいからだ。

ただしケーラーは「私見として」、例えば議会の承認なしに核による予防的先制攻撃を加える法的権限は大統領にもないと付け加えた。オバマ政権の高官だったブライアン・P・マッキオンも同意見で、「差し迫った攻撃」の脅威がない限り、大統領は憲法の下で、議会の同意なくして開戦に踏み切ることを禁じられていると語った。

しかし、とフィーバーは疑問を投げ掛けた。アメリカは今も、法的には北朝鮮と戦争状態にある。1953年の休戦協定は、公式には単なる「停戦」でしかない。この事実が先制攻撃に「何らかの法的根拠」をもたらすかもしれない。ただし自分は弁護士でないから断言できない。フィーバーはそう語った。

すると共和党のジェームズ・リッシュ委員が、図星を突く発言で議論を現実に引き戻した。大事なのは、この公聴会の模様を平壌から見守っているに違いない敵に対して、アメリカの本気度を疑うなというメッセージを送ることだ、とリッシュは言った。「今の議論は現実的でなく、理論的なものになっている。今日もどこかで戦闘の火花が散っているというのに、法律うんぬんの話はふさわしくない」

これを聞いたボブ・コーカー委員長は「そのとおりだ」とし、「それが本公聴会の目的だ」と付け加えた。どうやらコーカーは、トランプには核兵器を発射する絶対的かつ排他的な権限があり、それには誰も手を出せないと北朝鮮に伝えたいらしい。

消えぬ先手を打つ不安

次に発言したのは民主党のエドワード・マーキー委員だった。連邦議会の宣戦布告決議なくして大統領は核兵器を先制使用できないとする法案を提出している議員だ。

もちろん敵が先に核攻撃を仕掛けてきた場合は別だ、とマーキーは強調した。そのときには迅速な対応が必要であり、憲法第2条の規定に基づき、大統領には国を守るための決断を下す権限があっていい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中