最新記事

米軍事

米核戦略にICBMは必要? 過去の失敗事例から専門家は疑問の声

2017年12月5日(火)18時13分

11月22日、軍縮専門家によれば、米国が保有するあらゆる核兵器で、偶発的な核戦争の引き金となるリスクが最も高いものにICBMが含まれる。だからこそ、ICBM撤廃を求める声が一部で高まりつつあるのだ。写真は2015年、米カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地でICMB「ミニットマン3」の試射の様子をモニターで見る米軍兵士。米空軍提供(2017年 ロイター)

想像してほしい。いまは午前3時。米ホワイトハウスの主寝室では大統領が眠りについている。そこに、常駐する軍将校が、核兵器の発射コードを収納した「フットボール」と呼ばれるアルミ製スーツケースを取り出し、最高司令官を起こそうと駆けつける。

早期警戒システムによれば、ロシアが100基の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米国に向け発射した、と大統領は報告を受ける。ロシアの核兵器は30分以内に米国内の目標に到達する。

地上配備されたICBMをロシアに向け応射すべきか、大統領の決断に許される時間的な猶予は、最長でも10分だ。ICBM発射管制官を務めた経験があるプリンストン大学の核軍縮専門家ブルース・ブレア氏はそう語る。

「これはICBMを使うか、失うかという場面だ」と彼は言う。

戦闘ドクトリンでは、迅速な決断が求められる。なぜなら米ミサイル格納庫の位置は固定されており、よく知られているからだ。報復を阻止するため、ロシアは最初の一撃で米国の核ミサイルを壊滅させようと試みるだろうと戦略担当者は想定する。

軍縮専門家によれば、米国が保有するあらゆる核兵器で、偶発的な核戦争の引き金となるリスクが最も高いものにICBMが含まれる。だからこそ、米国の元国防当局者や軍事専門家、そして議員の一部からも、ICBM撤廃を求める声が高まりつつあるのだ。

彼らの主張はこうだ。敵の攻撃を受ける兆候がある場合、大統領はきわめて迅速にICBM発射を決断せざるを得ず、脅威の真偽を検証する時間がない。ヒューマンエラーや早期警戒衛星の誤作動、または第3者によるハッキングによっても、誤った警報発生の可能性がある。

米ICBM「ミニットマンIII」は、一旦発射されれば撤回できない。敵からの電子的干渉に脆弱との懸念に対応するため、同ミサイルには通信機器が搭載されていないからだ。

こうした懐疑派は、ICBMに代わって米核戦略における「3本柱(トライアド)」の残りの2本、つまり潜水艦搭載弾道ミサイルと、水素爆弾か核弾頭巡航ミサイルを装備した重爆撃機を頼みにするよう提言している。潜水艦か爆撃機かを決める場合であれば、大統領により長い時間的余裕を与えることができるからだ。

爆撃機は、ICBMに比べ目標到達まで時間がかかり、警報が誤りだったと判明した場合には呼び戻すこともできる。核ミサイルを搭載した潜水艦は通常目標の近くに常駐しているが、探知されないため、敵にその所在を知られることはない。ミサイルを応射する前に潜水艦が全滅するリスクは実質的にない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中