最新記事

韓国政治

文在寅政権下に噴き出した李明博時代のウミ

2017年11月29日(水)17時00分
ジャスティン・フェンドス(東西大学教授)

朝鮮半島大運河は、李が選挙公約に掲げたプロジェクトの1つ。国内の河川をつないで、メガコンテナが通過できる幅に拡張し、最終的に朝鮮半島を南北に貫く大運河を建設するという壮大な構想だった。

しかし莫大なコストがかかることもあり、当初からプロジェクトは激しい反対に遭い、最終的に白紙化された。しかし李は、大統領選で自分を応援してくれた財閥系ゼネコンに見返りを与える必要に迫られ、代替プロジェクトとして4大河川整備事業を打ち出した――。これが現在では定説となっている。

政府の会計検査を行う韓国監査院は13年、4大河川整備事業は李の直接的かつ個人的な指示で起案・実施されたとの結論を下した。このプロジェクトを推進していたのは、政権内部でも李だけだったともされる。

息を吹き返した株問題

それでもプロジェクトを実現に持ち込むため、李は事実と異なる実施理由も並べた。例えば、「韓国は国連の水不足国に指定されている」というもの。だが、国連にそのような指定は存在しない。このため文は今年5月、4大河川整備事業の政策決定や実施の過程について監査を命じた(結果はまだ出ていない)。

そもそも李は、大統領就任前から不祥事まみれだった。なかでも悪名高いのがBBK事件だ。

李は、92年に実業界から政界に転じたものの、公職選挙法違反が明らかになり、98年に国会議員を一度辞任。米ジョージ・ワシントン大学客員研究員に転じた。このとき在米韓国人の金敬俊(キム・ギョンジュン)が代表を務める投資顧問会社BBKと関係を深めた。

李は、金が韓国に複数のペーパーカンパニーを設立して外国人投資家の買収対象になっているという虚偽情報を流し、株価をつり上げるのを手伝ったとされる。買収の噂により株価は急騰し、金らは380億ウォン(約38億円)を子会社(のちに李と金が所有するペーパー会社であることが発覚)に送金して横領したとされる。

これにより損失を被った韓国の投資家たちが李を刑事告発したが、「証拠不十分」として立件されなかった。しかし李が出馬した07年の大統領選直前に疑惑が再浮上して、李はピンチに陥りかけた。

アメリカから帰国した金はすぐに逮捕され、起訴された。このとき李がBBKなど横領に関与した企業を一部所有していた証拠も見つかったが、李が大統領選に勝利すると、問題はうやむやに。その一方で金は、8年の懲役刑を言い渡された。

今年3月に刑期を終えてアメリカに戻った金は、BBKへの李の関与を立証するために協力を惜しまないと言う。「BBK事件の犯人は私だと考えられているが、実際は違う。私はこの事件絡みの多くの訴訟に勝ってきた。悪いのは当時の与党であり、その恩恵を得たのは李明博政権だ」

韓国検察は11月に入り、BBK事件の再捜査を正式に決めた。捜査の焦点は李の関与だ。どうやら李が朴に続き、ダーティーな過去について刑事責任を問われる大統領経験者になる可能性は、かなり高そうだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

From thediplomat.com

[2017年11月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中