最新記事

北朝鮮

北朝鮮「亡命兵士」の命を脅かす寄生虫の恐怖

2017年11月17日(金)13時29分
ケイト・シェリダン

回虫に寄生された患者は世界で約10億人(画像は3歳の男児に寄生した症例) South African Medical Research Council via Flickr

<銃撃された脱北兵の腸内から無数の寄生虫が見つかり治療を妨げているというが、その正体は>

南北軍事境界線上の共同警備区域(JSA)で脱北を図り、北朝鮮軍に銃撃された男性兵士は、現在韓国の病院で意識不明の重体に陥っている。兵士の腸内からは、最大で27センチにもなる無数の寄生虫が見つかった。

もし銃撃されていなければ、何の症状もないまま寄生虫は兵士は体内で生き続けていたかもしれない。

韓国の生物医学情報サイト「コリア・バイオメディカル・レビュー」によると、寄生していたのは回虫の一種「ヒトカイチュウ」と見られる。

回虫は、通常25センチ程度、場合によっては50センチ近くにまで成長する。兵士の腸から見つかった寄生虫の大きさと合致する。回虫はヒトの便を栄養源にして成長、繁殖する。兵士は栄養不良の状態にあるが、これも回虫に栄養を吸い取られ過ぎたときに見られる症状だ。

米疾病予防管理センターの情報サイトによると回虫は通常熱帯地域で見つかるもので、兵士の体からぞろぞろと回虫が出てきたのを見て医師たちが驚いたのも無理はない。

「20年以上、外科医をしているがこんな寄生虫は見たことがない。韓国にはいないだろう」と、兵士の治療にあたった外科医のイ・グクジョンは話している。

血流にのって他臓器へ

回虫はヒトの腸内に寄生するが、体内の他の臓器にも移動する。卵からかえった幼虫が、血流にのって肺や胃に到達し、住み着くのだ。

世界中では約10億人がヒトカイチュウに感染し、他の種類の回虫も合わせると患者の数はさらに増える。回虫の仲間としてはほかに、鞭虫(ベンチュウ)や鉤虫(コウチュウ)があり、ペットの糞に寄生する種類もある。

回虫に寄生されてもほとんど検知はできず、米センターの情報サイトによると、回虫が相当な数に増えるまで患者に症状はない。仮に症状が出ても分かりにくい。患者の便から検出されることがあるほか、症状としては胃痛や咳が出るぐらいだ。

米政府の医療情報サイトによると、回虫は抵抗力が強く、その卵は10~24カ月も生きられる。幸いなことに回虫は薬で駆除可能で、一般的には3種類の薬が使われている。

脱北兵士の場合は不幸なことに、寄生虫が回復の妨げになっている。担当外科医によると、医師団は「必死の治療」を続けているが、寄生虫が銃創のあたりを「食べる」のだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベイリーFSB議長、G20に金融市場クラッシュの恐

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中