最新記事

中国共産党

習近平新指導部の上海視察は何を意味するのか?

2017年11月2日(木)15時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ではなぜ、NHKや産経新聞の「解釈」が必ずしも適切ではないのか。

(なお、筆者はペーパーレスで、メールに自動的に入ってきたネット・ニュースしかチェックしていないことをお許し願いたい。)

勿忘初心(初心、忘るべからず)

2007年3月、習近平は江沢民とその大番頭・曽慶紅の、胡錦濤政権に対する強引な主張によって、上海市の書記として上海にやって来た。着任後、習近平が最初に視察したのは、なんと、中国共産党第一回党大会が開催された跡地だった。それはまるで中国共産党の「紅い血統」を誇示するようでもあり、5年後の「紅い皇帝」を心に描いていたような選択だった(詳細は『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』p.122)。

しかし10年後の2017年10月18日、党大会初日に習近平は総書記としての3時間24分にわたる党活動報告をしたが、そこで何度も使った言葉は「勿忘初心(初心、忘るべからず)」だった。

この「初心」とは何なのか?

それは中国共産党は何のために設立されたのか、という建党時の理念だ。

1949年10月1日に中華人民共和国が誕生したとき、私たちはその「中国」を「中華人民共和国」と呼ばずに「新中国」と称した。

全中国で「共産党がなければ新中国はない」という歌が歌われ、教育現場で歌わされるだけでなく、新華書店という唯一の本屋に行っても必ずこの歌が流れており、幼稚園生から公園で太極拳を舞う老人に至るまで、どこもここも「新中国」という言葉に満ちていた。

あの「新中国」が誕生した時(その後の数年間だけ)、人民はまだ中国共産党を信じていた。

1978年12月に改革開放が始まって、社会主義国家の人民が金儲けに走っていいことになり、これでは「精神が腐ってしまう」と反対した毛沢東時代の老人たちは「特色ある社会主義国家、中国」という「特色」二文字を冠することによって黙らされ、30年後には底なしの腐敗が蔓延した。

何が共産党だ、何が社会主義国家だ!

人民の不満は爆発寸前になっている。それを言論弾圧などで抑え続けることが出来る時代ではない。

ネットがある。

もう誰も共産党など信じていないことを習近平は知っているだろう。だからこそ、どのようなことがあっても共産党がどれだけ素晴らしいかを人民に植え付け再洗脳しなければならないのだ。

となれば、中国共産党が誕生した時の「初心」に戻ろうではないか。

それが「勿忘初心」なのである。

だから新チャイナ・セブンにあの最後の中国の知恵袋・王滬寧(おう・こねい)を精神文明思想のイデオロギー担当に遂に入れてしまった。江沢民、胡錦濤、習近平と三代の紅い皇帝に仕え、絶対に政治の表舞台に出たくないと頑なに拒否してきたあのブレインを、表舞台に出してしまったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中