最新記事

テクノロジー

Siriを超える音声認識の世界

2017年10月2日(月)16時25分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラム二スト)

70年代に入ると米国防総省傘下の防衛先端技術研究計画局(DARPA)が大規模な音声認識システムの開発に取り組み、約1000語を理解できるようになった。21世紀の現アメリカ大統領と似たような語彙力だが、実用化には程遠かった。

音声認識技術で知られるドラゴンシステムズは、90年に最初の消費者向け口述筆記ソフトを発売したが、値段は9000ドル。使うほどに不満がたまる代物だった。98年に私がIBMの研究チームに確認したときも、音声認識技術は日常生活で使うにはまだ不十分だった。

創造のプロセスが変わる

技術が大きく飛躍したのは07年以降だ。グーグルやアマゾンが運営する巨大なデータセンターが、携帯端末やクラウドサービスで交わされる膨大な量の会話を使って言語を「学習」できるようになった。

私たちが話し掛けるたびに、アレクサやワトソンは少しずつ人間の話し方を覚える。いずれ標準的な人間よりシステムのほうが、人間の話を理解できる日も来るだろう。

そこまで賢くなれば、世の中は劇的に変わる。買い物の習慣どころか、思考回路さえ変わるかもしれない。

私たちは数十年をかけて、キーボードとマウスを使って考えるようになった。ドラゴンシステムズのジョエル・グールドは98年に、「口(マウス)を使って考える」時代になれば「創造のプロセスが変わる」と予言している。

ある意味で、脳が本来の機能に立ち返るとも言える。人間は数千年の間、ペンもタイプライターもワープロも使わずに物事を考え、創造した。叙事詩『イリアス』を紡いだホメロスにキーボードは必要なかった。

音声認識が普及すれば、読み書きができなくても人並みの生活を送れるようになる。グーグルの音声認識サービスが途上国の言語に次々と対応しているのは、これまで手の届かなかった市場を見据えているからだ。

読み書きができないか、インターネットが使えない成人は全世界で7億8100万人。彼らは安価な携帯電話に話し掛けるだけで、公共サービスに登録し、銀行口座を開設して、猫の動画を見られるようになる。

さて、私はアレクサに「2つのターンテーブルと1つのマイクロホンって何のこと?」と質問した。答えは――「さあ、分かりません」。

ちなみに、正解はベックの90年代のヒット曲の歌詞。アイスクリームと間違えなかったことは褒めておこう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ワールド

イラン上空で米戦闘機撃墜、乗員1人を救助 対イラン

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

米政権、「脱獄不能」アルカトラズ監獄再開へ予算 ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中