最新記事

脳の「忘れる」はたらきを模倣する量子物質、米研究者が発見

2017年10月20日(金)17時00分
高森郁哉

脳の「忘れる」はたらきを模倣するペロブスカイト物質 A Material That Mimics the Brain-Youtube

人間を含む動物の脳は、記憶容量に限りがあるため、重要度の低い情報を忘れることによって情報処理を効率化する。こうしたはたらきを、特殊な結晶構造を持つ物質で模倣することに成功した、と米国の研究者チームが発表した。

量子レベルでのシミュレーション

米アルゴンヌ国立研究所のナノ科学チームが実施した研究で、英学術誌「ネイチャー」系のオープンアクセスジャーナル「ネイチャー・コミュニケーションズ」に論文が掲載された。同チームが研究に用いたサマリウムニッケル酸塩(SmNiO3)は、量子ペロブスカイトと呼ばれる特殊な原子結晶構造を持つ。この物質に陽子1個を加えたり取り除いたりすると、ペロブスカイト構造が膨張したり収縮したりする、いわゆる「格子呼吸」という現象が起きる。

ところが、この格子呼吸を起こすプロセスを継続していると、ペロブスカイト物質が順応して電子的な特性が変化し始める。やがて、陽子を加えたり取り除いたりしても、格子呼吸が起きにくくなっていったという。研究チームはこのような変化が、「ウォータースライダー(絶叫マシンの一種)を最初に滑り降りるときはひどくおそろしく感じるが、繰り返し滑っているうちに恐怖が薄れていく」という状況に似ていると説明する。

チームは、「忘却に似たパターンを示す非生命体の物質を作ることは難しいが、われわれが研究した特殊な物質は忘却の挙動を模倣することができた」と述べている。

応用の可能性は

研究者らは、ペロブスカイト物質のこうした特性が、脳の複雑な学習経路を単純化したモデルに利用できるのではないかと期待する。また、ニューラルネットワーク向けの新しいアルゴリズムの開発につながり、人工知能や機械学習の改良に役立つ可能性があるとしている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中