最新記事

映画

信じ難く美しいぶっ飛びオナラ映画『スイス・アーミー・マン』

2017年9月22日(金)17時15分
ジェフリー・ブルーマー

ハンクはガスを噴出する死体をジェットスキーにして無人島を脱出 ©2016 IRONWORKS PRODUCTIONS, LLC.

<孤独なダメ男とピュアな死体のサバイバル物語は「死体がオナラをする映画」>

まず断っておくが、死体はオナラをする。それも、そのパワーで海を渡れるほど盛大に。

サンダンス映画祭のプレミア上映でお上品な映画関係者がたまりかねて退場した瞬間から、『スイス・アーミー・マン』は「死体がオナラをする映画」として知られることになった。

実際、この映画では死体がガスを出しまくる。それでもスカトロ趣味まるだしの映画を見て心が洗われることだってある。この映画が立派な証拠だ。

見捨てられた漂流者と、彼の心を癒やすフレンドリーな死体。無人島での奇妙な出会いで始まる物語は、切なくも心揺さぶる「バディ映画」に発展する。設定も荒唐無稽なら、ギャグも下ネタずくめで、観客は唖然とさせられるが、有毒ガスに負けず最後まで付き合ったら「見てよかった!」と思うはずだ。

観客が最初に出会うのはハンク(ポール・ダノ)。無人島の浜辺で絶望のあまり首つり自殺をしようとしている。そこに死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。ハンクがメニーと名付けたこの死体は、孤独なハンクの相棒になる。ハンクは何も知らないメニーに愛や孤独、マスタベーションといったこの世界の大事な事柄を教える。

そうこうするうち、ハンクはメニーの持つ不思議な力に気付く。例えば、メニーの体の「ある部位」は森で迷ったときにコンパス代わりになる。メニーはサバイバルに役立つスイス・アーミー・ナイフばりの万能ツールなのだ。ハンクはメニーを使って水や食糧を確保し、森の中に秘密基地まで造る。

1日の終わりには未来を夢見る2人(1人と1体)。文明世界に戻り、愛する女性に巡り合えたらどうなるか、ハンクはメニーに教えるために手作りのカツラを着け、憧れの女性に扮してみせる。それでなくてもぶっ飛んだ映画だが、むさ苦しい女装男と青白い死体が恋人ごっこを繰り広げるに至って、ぶっ飛び度はマックスに達する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中