最新記事

対中国の「切り札」 インドの虚像

日本が急接近するインドが「対中国」で頼りにならない理由

2017年9月20日(水)06時40分
ジェーソン・オーバードーフ(ジャーナリスト)

インドはインドの都合で動く

パキスタンとの険悪な関係や、ヒンドゥー・ナショナリズムが高まるなかでのイスラム教徒の人口増加も事態を複雑化させる要因になっている。

モディの下でインドは、イスラエルとの関係強化を模索してきた。国内のイスラム人口増加で、被害妄想気味なヒンドゥー・ナショナリストがイスラエルに接近するのは自然なことだ。

一方で中国は、インドと対立するパキスタンに肩入れする。だから中国とインドの仲たがいは続く。それでもカシミール紛争やテロ絡みの問題を解決する上で頼りになるのは、アメリカではなく中国かもしれない。そうであれば「反中国」での同盟形成には動きにくい。「中国と友好関係を築くのは難しいが、協力しなければならないことは分かっている」とジェイコブは言う。「誰かの都合では動かない。私たちには私たちの都合がある」

経済面も同じことだ。軍事面以上に経済面では中国が圧倒的に優位だ。経済規模を見ればその差は歴然。中国のGDPは11兆1990億ドルで、インド(2兆2640億ドル)の約5倍。日本企業は投資先を中国からインドや東南アジアにシフトし始めているが、8万社ほどの日本企業による対中投資額は既に1000億ドルを超えるし、日中貿易額は今や年間3500億ドルを超える。

他方、00年以降に日本企業がインドに投資した額は250億ドルにすぎず、現在の日印貿易額はわずか160億ドル。一方で中国からインドへの直接投資は急速に伸びており、中印貿易は既に700億ドルを超えている。

とはいえ、対中バランスを取る上でインドが果たせる役割がないわけではない。中国経済の急成長は終わりに近づいている。インドの経済発展はまだ始まったばかりで、将来有望だ。

もし、モディが経済改革に失敗して、投資家たちが期待したような成長を遂げられなかったとしても(そうなる可能性は高まっているが)、向こう数十年は5%成長が続くだろう。そして日本は、世界中の誰よりもその恩恵にあずかることができる。

4年ごとの選挙に振り回されるアメリカは長期の戦略を立てにくいが、とジェイコブは言う。日本企業は気が長く、現に自動車のスズキはインド市場で(アップルを除けば)どのアメリカ企業よりも成功している。

中国に対抗するために、日本やアメリカがインドを自分の陣営に引き入れたいと本気で考えるならば、時間がかかることを覚悟しなければならない。一朝一夕にはいかないだろう。

※「対中国の『切り札』 インドの虚像」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【参考記事】インド「聖なる牛」の闇市場

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア「H20」は安全保障上の懸念=中国国営

ワールド

中国、米にAI向け半導体規制の緩和要求 貿易合意の

ワールド

北朝鮮、軍事境界線付近の拡声器撤去を開始=韓国軍

ワールド

米、金地金への関税明確化へ 近く大統領令=当局者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 2
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋肉は「光る電球」だった
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 5
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 6
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 7
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中