最新記事

北朝鮮ミサイル発射

北朝鮮を止めるには、制裁以外の新たなアプローチが必要だ

2017年8月29日(火)09時00分
三浦瑠麗(国際政治学者)

日本は日本国憲法が掲げる平和主義を言い訳にして、北朝鮮に効果的な制裁を科すことすらしなかった。左派の日本人は、朝鮮半島有事の際に自衛隊に米軍の後方支援ができるようにする周辺事態法にも強く反対した。

日韓はともに、アメリカの決断力のなさにじっと耐えてきた。アメリカと不平等な同盟関係を結ぶ両国には、他に選択肢がなかったからだ。日韓には独自に行動を起こす能力も政治的な意思もなかった。

それでは具体的にどうすれば北朝鮮を止められるのか

正しい行動

強硬な動きと穏健な動きの両方が必要だ。強硬面では、北朝鮮周辺でアメリカが持つ軍事力の増強が必要だろう。北朝鮮の核施設やミサイル基地を狙った攻撃能力や、情報機関の格上げ、さらに日本と韓国が独自の核抑止力を持つことすら必要になるかもしれない。

日本でも韓国でも、核攻撃能力の開発は長年タブーとされてきたが、それを容認する声は着実に増している。

核攻撃能力は、日本と韓国が独自に抑止力を持つために必要だろう。さらに重要なことに、それによってアメリカから有意義な行動を引き出せる可能性もある。

トランプは2016年の米大統領選前、北東アジアの同盟国はアメリカの安保に「ただ乗り」していると批判していた。韓国と日本がより強硬な対北朝鮮政策を導入すれば、米政府や米国民から信頼を取り戻せるかもしれない。

一方で北朝鮮が望んでいるのは、金正恩体制存続の保障だ。外交的に言えば、正式に北朝鮮を国家として認めること。国交樹立のための交渉には、何らかの経済支援も含める必要があるだろう。北朝鮮が外貨を稼げる有力な産業を育成するために不可欠だ。

国際社会の中でもとりわけ東アジア諸国は、北朝鮮の核・ミサイル問題に関するアメリカの決断力のなさに苦しんできた。そろそろ甘い期待や計画を断ち切る時だ。今必要なのは、新たな制裁ではなく、まったく新しいアプローチだ。

(翻訳:河原里香)


ruri-2.jpg三浦瑠麗
国際政治学者
1980年10月神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学政策ビジョン研究センター講師。専門は、国際政治、比較政治の理論研究。主要業績は、『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)。政治外交評論のブログ、『山猫日記』を主宰しており、それをまとめたものに、『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)がある。

Lully Miura, Lecturer at Policy Alternatives Research Institute, University of Tokyo

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中