最新記事

テクノロジー

ビットコイン大国を目指すスイスの挑戦

2017年7月29日(土)11時20分
ソニア・ジュラブリョーワ

ユーザーの匿名性を守るビットコインは、麻薬や銃器などの違法取引が横行する闇サイトで使われやすい。「規制の整わない新技術は悪用されやすく、法の網をかいくぐろうとする者も多い」と、米コーネル大学のエミン・ガン・シアー准教授は指摘する。例えば中国政府は国外送金に年間5万ドルの上限を設けているが、ビットコインを使えばこの規制を回避できる。

安全性にも問題がある。14年には取引所大手のマウントゴックスで85万のビットコイン(当時で約5億ドル相当)が消失し、閉鎖に追い込まれた。「この技術は進化の途中だから、今後もこうした失態は起こり得る」と、ガン・シアーは言う。

法整備と安全性の確保はどこの国でも急務だ。イギリスは15年に1290万ドルを暗号通貨の研究に計上し、前向きな姿勢を示した。だが規制が進まないため業界に不安が生じ、技術革新を阻んでいる。

アメリカは暗号通貨に懐疑的で、ビットコインを通貨と認めていない。数年来、財務省の金融犯罪取締ネットワークと税務当局が段階的に法整備を進めているが、まだ固まっていない。「法整備が技術革新に追い付かない」とアメリカのアナリスト、クリス・バーニスケイは言う。「多くの企業が罰金や閉鎖を恐れ、アメリカの規制の動きに戦々恐々としている」

業界関係者に言わせれば、スイスは正しい方向に向かっている数少ない国の1つだ。

【参考記事】ビットコインを入手する5つの方法まとめ

magb170728-bit01.jpg

ツークではビットコインを扱うアプリを運営するマネタスなど新企業が続々誕生 Michael Buholzer-REUTERS

ツークの町役場では、住民登録などの手数料支払いにビットコインが使える。全国レベルでも、スイス政府は業界各社と緊密に連携し、銀行業のライセンスがない民間企業にも顧客が暗号通貨を預けられる仕組みの構築を目指している。

「スイス経済の規模は小さいから、革新によって競争面で有利な立場を維持することはとても重要だ」と、スイス財務省国際金融担当事務局のアン・セザーは言う。「だからこそ政府としては、重い規制で技術の進歩を遅らせることは望まない」

これは業界にとって画期的なことだと、ツークを拠点とする暗号通貨起業家のオルガ・フェルドマイヤーは言う。「スイスは私たちのビジネスモデルを詳しく調べ、この新たな業界を適切に規制する方法について正しい判断を下している」

政治家がビットコインの位置付けや規制法に頭を悩ませる一方で、業界の注目はビットコイン技術の応用に移っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済が堅実である限り政策判断に時間をかける=FR

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中