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先端科学

宇宙の放射線からクルーを守れ

2017年5月19日(金)17時40分
スワプナ・クリシュナ

将来は「宇宙天気予報」も

だが暗い話ばかりではない。研究チームによれば、ビタミンの日常的な経口摂取で宇宙飛行士を放射線の害から守れる可能性がある。「放射線被曝前に細胞に投与しておけば、細胞の潜在能力の約75%を回復できるらしいサプリメントが見つかった」と、ポラダは言う。錠剤は吸収率が悪いので、溶けやすくする方法を研究中だという。

体の内側ではなく外側から守る方法も開発中だ。イスラエルのステムラッド社は原子力発電所の作業員や、原発事故現場に駆け付ける消防士や警察官を放射線から守ることに特化した企業。今回は宇宙飛行士用の放射線防護ベストを設計した。特に放射線の影響を受けやすい臓器や組織や幹細胞を保護する設計になっているが、24時間常時装着しなければ効果がない。将来は宇宙飛行士一人一人に合った快適で柔軟性のあるベストを作ることを目指している。

NASAは18年に、スペースシャトルの後継機となるオリオンで無人の月周回飛行試験「探査ミッション1(EM-1)」の実施を予定している。EM-1ではオリオンに乗せるダミー2体のうち、1体にステムラッド社の防護ベストを装着。回収後の計測結果を比較して放射線防護効果を判断することになっている(ただし有人飛行試験に変更される可能性もあり、その場合、防護ベストを装着するかどうかは不明)。

NASAが懸念すべきもう1つの宇宙線は「太陽宇宙線」だ。NASAの太陽系物理学部門の主任研究者エルサイード・タラートによれば、太陽フレアなどで高エネルギー粒子が大量に放出される「太陽陽子現象(太陽粒子現象)」と呼ばれる現象が生じている。

【参考記事】「宇宙兵器」の噂もある米空軍の無人機、軌道飛行記録を更新中

こうした宇宙天気現象によって放出された粒子は、中枢神経系にダメージを与え、運動機能と認知機能を低下させるなど、短期間に急性の影響を及ぼしかねない。長期的には癌のリスクを増大させる。

火星ミッションで浴びることになる宇宙放射線から宇宙飛行士をどう守るか、NASAはさまざまな対策を試している。オリオンは宇宙線センサーを装備。太陽フレアなどの放射現象を探知するとクルーに知らせ、宇宙船の貨物室に避難させる。

「最終的な目標はこうした宇宙天気現象を予測すること」だと、タラートは言う。「宇宙天気予報が実現すれば、宇宙の仕組みを物理的に解明できる日は近いと期待している」

怖い宇宙放射線から宇宙飛行士を守るカギはバランスにある。つまり内と外、予測と防護の兼ね合いが重要だ。NASAがどんな方法を取るにせよ、宇宙線の問題は解決しなければならない。さもないと、宇宙旅行はお預けのままだ。

[2017年5月23日号掲載]

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