最新記事

航空

AIで安心な空の旅をもう一度

2017年5月30日(火)10時30分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジー・コラム二スト)

ユンによれば、ほとんどの製品カテゴリーで「価格だけを満足度の基準にしている消費者は少数」だと言う。にもかかわらず、運賃以外の条件に基づいてフライトを選べるサイトは多くない。

だが乗客の不満が限界に達するなか、最先端テクノロジーの力による新たなビジネスが航空業界に大規模な変化を迫る可能性が浮上している。その好例がサーフエアによる定額制の飛行機乗り放題サービスだ。

全8座席の小型機を使ったこのサービスは、プライベートジェット用のターミナルを利用する。空港利用時にありがちなセキュリティーチェックの長い列や混雑する搭乗ゲート、スイーツの誘惑とは無縁だ。

ハイヤー予約サービスのウーバーと同様に、サーフエアもアプリで予約できる。カリフォルニア州内の12都市間が、1カ月1950ドルで乗り放題。月4回乗れば、1回約500ドルでプライベートジェットを利用した気分になれる計算だ。既に3000人が利用しており、間もなくヨーロッパでもサービスを開始する。

【参考記事】テック大手が軒並みスマートスピーカーに参入する理由

オーダーメイド感覚で

こうしたオンデマンド航空サービスを可能にしたのはAIだ。AIは航空機が必要な時期と場所を推測し、そのフライトを利用しそうな会員を予測できる。

ユンによれば、こうした定額制サービスは航空会社と乗客の関係を変える。航空会社はマイルごとの利益といったそろばん勘定にとらわれず、乗客の待遇向上に意欲的になれる。ルフトハンザドイツの子会社ユーロウィングスも、フライト10回分で500ユーロ前後の定額制を試験的に実施している。

いずれAIベースの定額制が主要航空会社のビジネスの一環として定着すれば、技術革新の可能性はさらに広がるはずだ。オンラインのDVDレンタル同様、AIも顧客の旅の傾向を学習するだろう。

特定の都市を頻繁に訪れ、追加料金を払ってでも足元スペースの広いフライトを選び、有料のWi-Fiを利用し、離陸後はバーボンを2、3杯......。それを航空会社のコストおよび空席状況と照合し、その人に合うフライトをはじき出す。

乗客にとってはいくらか安上がりな上に、フライト検索の時間と手間も省ける。それに乗客も航空会社も運賃の目安がつく。業務的かつ敵対的だった両者の関係は、愛着を感じる長い付き合いに変わる可能性がある。

そうなればもう引きずり降ろされる心配はない......とは言わないが、バーボンの好みくらいは覚えてもらえるはずだ。

[2017年5月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、英軍施設への反撃警告 ウクライナ支援巡る英

ワールド

中国主席に「均衡の取れた貿易」要求、仏大統領と欧州

ワールド

独、駐ロ大使を一時帰国 ロシアによるサイバー攻撃疑

ワールド

ブラジル南部豪雨、80人超死亡・100人超不明 避
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中