最新記事

ロシア疑惑

プーチン、トランプ狂想曲を笑う----「政治的な統合失調症」とも

2017年5月18日(木)16時50分
クリス・リオッタ

アメリカの混乱を尻目に余裕のプーチン露大統領(左はラブロフ外相) Maxim Shemetov-REUTERS

ドナルド・トランプ米大統領はこのところ、やることなすこと裏目に出ていいところがない。ジェームズ・コミーFBI長官の電撃解任でトランプ政権とロシアとの関係に対する疑惑が一層強まるなか、トランプがホワイトハウスでロシア外相らに機密情報を提供したとワシントン・ポストがスクープ。そうかと思えば、コミー解任が司法妨害に当たる可能性まで浮上し、特別検察官が任命されるなど、大統領弾劾がにわかに現実味を帯びてきた。

【参考記事】共和党はなぜトランプを見限らないのか

この状況をいちばん楽しんでいるのは、ロシアだろう。ウラジーミル・プーチン大統領以下、政府高官が揃って高みの見物を決め込み、米政界の混乱ぶりを喜んでいる。

トランプが10日、ホワイトハウスでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相、セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と会談した際にイスラエルの情報機関がつかんだ機密をイスラエルに無断でロシア側に提供したとされる問題について、プーチンは米メディアと議会の「狂乱ぶり」を皮肉り、身内受けする冗談を飛ばす余裕さえ見せた。

イタリアのパオロ・ジェンティローニ首相との会談後に行われた17日の記者会見で、ラブロフ外相らはトランプから機密情報の提供を受けたのかと聞かれたプーチンは、「私は聞いていない。私もロシアの情報機関も聞いていない」と笑いながら答えた。情報を独り占めするなんて、「ラブロフに罰を与えなければならない」。

【参考記事】トランプ、最高機密をロシア外相らに話して自慢

トランプが大統領としての責務を果たせずにいるアメリカの状況を「政治的な統合失調症」で危険な兆候だとも指摘した。

墓穴を掘るトランプ

プーチンのジョークはその場にいた政府高官らに大受けで、彼らが咎めるようにラブロフを横目で見ると、ラブロフも笑いをこらえきれない様子だった。ロシアの政府寄りのテレビが報じたその模様は、「米当局者は苦りきっているのに、ロシアの高官は大笑いだ」といったコメント付きで、SNSを通じて即座に広まった。

プーチンに「罰を与える」と言われて笑うラブロフ(手前)


プーチンはさらに、トランプ政権から要請があれば、ラブロフ、キスリャクとトランプの会談の記録を米議会にいつでも提出すると言った。

とぼけ達者はラブロフも同じだ。10日にトランプとの会見に先立ってレックス・ティラーソン米国務長官と会談したラブロフは、その後写真撮影のためにティラーソンと取材陣の前に姿を見せた。ロシア疑惑の捜査体制強化を求めていたコミーが前日に解任されたことをどう思うかと聞かれると、ラブロフは「誰が解任されたって?」としらを切り、「冗談だろう」と大袈裟に驚いてみせた。

ラブロフ: "Was he fired? You are kidding, you are kidding"


【参考記事】 >FBIコミー長官解任劇の奇々怪々

コミー解任の理由について、ホワイトハウスは当初、司法省の勧告による決定だと発表したが、トランプは「前から決めていた」などと、この説明と矛盾する発言をしたばかりか、更迭を決断したときは「ロシアのこと」が念頭にあったと言い、自ら疑惑を深めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中