最新記事

ロシア

大規模デモで始まったプーチン帝国の終わりの始まり

2017年4月10日(月)19時50分
マクシム・トルボビューボフ(米ウッドロー・ウィルソン・センター/ケナン研究所上級 研究員)

ナワルニーは、動画が予想外に多く閲覧されたことで3月26日の抗議デモを呼びかけた。動画を見た人々にとっては、誰が何を所有しているか、という詳細など見ていなかった。食べることに汲々とする人々は、政府高官に提供されたとされる豪邸やイタリア・トスカーナのぶどう園を見ただけで逆上した。今回のデモは、ロシア人の「デモ疲れ」は誇張で、腐敗には慣れっこというのも嘘だということを証明した。

さらに根本的な教訓は、ロシアのエリート階級と大衆との格差が、反政府運動が盛り上がった6年前、あるいはソ連邦が崩壊した26年前と比べてもほとんど変わっていないということだ。クリミア併合によるナショナリズムの高揚も、その架け橋にはならなかった。

世論調査で政府やプーチン大統領について聞かれて表向きは何と答えようと、根底では自分たちが置かれた状況と権力者たちの暮らし向きの格差を理解しているのだ。

そしてもちろん、支配階級の不正を「自然現象」として無視することをまだ知らない若い世代がいる。3月26日の集会に大勢の若者が参加したことは、体制側と反体制側双方を驚かせた。18歳の若者たちが反汚職運動に身を投じ始めたらいったいロシア社会はどうなるのか、誰にも想像がつかないのだ。

【参考記事】ロシアの反政府デモにたまらず参加した子供たち

体制的には、ロシアの根本は何も変わっていない。ロシア政府の外には、自分の意見を主張したい人々のための政治的手段は存在しない。何か共通のテーマが浮上したときに通りに繰り出すしか、政府にメッセージを伝える方法はない。それは逆に、抑えつけられてきたマグマがいつ噴き出すかわからないということでもある。

Maxim Trudolyubov is a senior fellow at the Wilson Center's Kennan Institute and editor at large of Vedomosti, an independent Russian daily. The opinions expressed here are solely those of the author.

This article first appeared on the Wilson Center site.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中