最新記事

イスラエル

トランプはどこまでイスラエルに味方するのか:入植地問題

2017年2月10日(金)18時00分
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相 2016年9月 Kobi Gideon Government Press Office (GPO)-REUTERS

<トランプ氏は選挙運動期間中から、アメリカ大使館をエルサレムへと移転させると主張し、物議をかもしてきた。そして、さらに注目を集めているのがヨルダン川西岸地区の入植地問題だ>

トランプ新政権が大統領令で、イスラーム教徒が多数派を占める7カ国からの移民規制を発表したのを受けて、日本を含め国際メディアの目がアメリカに集まっている。連邦地裁が大統領令の効力の一時停止を命じたことを受け、トランプ側は連邦控訴裁判所に命令取り消しを求めて上訴するなど、移民規制問題は司法闘争へと発展している。

イギリスでは、トランプ大統領の公式訪英中止を求めて、ソーシャルメディアで180万人以上の署名が集まった。また英下院議長が大統領による議会演説に強い反対姿勢を示すなど、国際的な反響を含めて異例尽くしの展開となっている。

こうした動きを当の中東諸国は固唾を呑んで見守っているのか、というと実はそうでもない。イエメンやシリアなど紛争地では淡々と日々の戦闘が続き、アラビア語の国際報道をにぎわすのは、それらの戦況や、中東諸国内での政治動向のニュースだ。人材またはテロリストとして、移民・難民を受け入れるか否かの判断は、欧米先進国の間での倫理と政策の問題であり、送り出し地域の中東側としては口を差し挟みようもないことだからかもしれない。

アメリカを巻き込む入植地問題

一方でトランプ氏は選挙運動期間中から、アメリカ大使館をエルサレムへと移転させると主張し、物議をかもしてきた。宗教的聖地を含むエルサレムは、パレスチナとイスラエルの間で帰属や首都指定をめぐって長年対立が続く、和平交渉の係争地である。これが解決するまで各国の大使館や代表部は、テルアビブもしくは自治区のラーマッラーに置かれている。トランプ氏の主張はそうした現状を覆し、公式にイスラエルによるエルサレムの領有を認める姿勢をアピールするものといえる。

これに対して、パレスチナ側は強く反発している、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は、就任直前のトランプ氏に対して、移転が「実行されればイスラエルの国家承認を取り消す」と声明を出し、けん制をかけた。強引にことを進めるなら、1993年のオスロ合意以降の和平交渉の前提となってきた枠組みそのものから離脱するとの構えだ。

とはいえ大使館移転問題は、トランプ大統領の就任後、まだ大きな動きを見せていない。代わりに注目を集めているのは入植地問題である。イスラエル国会は2月6日、ヨルダン川西岸地区に無許可で建てられたユダヤ人入植地16箇所の住宅約4000戸に対して、その建設を合法化する法案を可決した。これはパレスチナ自治区内での入植地拡大や、そのためのパレスチナ側からの土地の占領を、イスラエル政府として公に追認するものである。イスラエル政府側はこの新法を、それまで無許可だったものを合法化するという意味で「正規化法」と呼ぶが、パレスチナ側やイスラエルのリクード党内を含む反対派は「土地収奪法」「盗難法」と呼び、批判を強めている。

【参考記事】イスラエルのネタニヤフ首相「東エルサレムでの住宅建設制限を撤廃」

なぜこの時期に、入植地の合法化が図られたのか。それは昨年末からのアメリカを巻き込む入植地問題に対する動きや、数日前にイスラエル政府が強制執行に踏み切った、アモナ入植地の撤去が関係している。アモナは違法建設の仮設入植地(アウトポスト)として、2014年には既にイスラエルの高等裁判所から移転が命じられていた。だが実際には移転が何度も延期され、最終期限となる2月8日の一週間前にイスラエル警察が強制排除に入ることとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減

ワールド

米イラン核協議、3日予定の4回目会合延期 「米次第
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中