最新記事

東南アジア

インドネシア民主主義の試金石となるか  注目のジャカルタ州知事選が15日投票

2017年2月14日(火)11時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

アホック候補にはジョコ・ウィドド大統領の出身母体でもある与党「闘争民主党(PDIP)」などが支持を表明しているが、政党色は選挙戦終盤まで控え目だった。PDIPの党首は国民から独立の英雄として尊敬を集めるスカルノ初代大統領の長女のメガワティ・スカルノプトリ元大統領である。アホック候補は「私は闘争民主党の人間ではないがメガワティさんの信奉者」であると公言するなど脱政党色を前面に出してきた。しかし選挙戦で宗教や人種、出身地域などインドネシアでは「触れてはならないタブー」とされる「サラ(SARAH)」にまで反アホック運動が「土足で踏み込んできたこと」に危機感を抱いたメガワティ前大統領は1月23日の自身の誕生日を祝う会や2月4日のアホック候補決起集会などで「インドネシアの統一、多様性、寛容の精神を守るため」としてアホック氏支持を堂々と公言するようになった。

選挙世論調査はあてにならない

各種世論調査ではアホック候補がリードし、アニス候補が追いかけ、アグス候補が苦戦する結果がでているが、過半数を超える支持はどの候補も厳しい情勢となっている。経営者の支持政党で露骨に調査結果、報道姿勢が特定候補に偏ると指摘されるテレビの報道番組、調査結果でも「3候補拮抗」が伝えらえている。しかし選挙に関する世論調査の結果や報道内容がなかなか実態を反映しなくなっていることは先の米大統領選でのトランプ候補とクリントン候補の例でも実証されている。

予想以上に「隠れアホック支持者」がいる、と筆者は予想、いや期待をしているのだが。実際は果たしてどうなるだろうか。

アホック氏とは直接の面識はないもののアホック氏を熱烈に支持する数多いジャカルタ市民でイスラム教徒の友人たち、そしてメガワティ前大統領の側近たちや懇意の記者たちの冷静な分析結果を聴きながら、今回の選挙でジャカルタ市民が首都の住民として成熟した民主主義、宗教による差別を許さない寛容な精神などに基づく懸命な判断を下すことにこの国の新たな一歩を期待したいと心から思っている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米株から日欧株にシフト、米国債からも資金流出=Bo

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、4月改定49.0 32カ月ぶ

ビジネス

仏製造業PMI、4月改定値は48.7 23年1月以

ビジネス

発送停止や値上げ、中国小口輸入免税撤廃で対応に追わ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中