最新記事

中国

トランプ政権誕生と中国

2017年1月20日(金)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

「一つの中国」原則は中国にとって最大の核心的利益であり、たとえ米中の国交を断絶してでも守り抜くだろう。へたすれば戦争になる可能性だって否定できない。

 しかし中国には弱みがいくつかある。

 一つは、どんなに中国が経済大国としてだけでなく軍事大国としても成長したとはいえ、アメリカには勝てない。特に軍事力において、いま戦争することはできないのである。

 習近平国家主席は、中央軍事委員会主席として中国人民解放軍に「いつでもすぐに参戦できる態勢を取り、参戦したからには絶対に勝利すると覚悟せよ!」と厳しく訓示を垂れてきた。

 その戦争相手が誰であると想定しているのかは別として、絶対に勝利すると考えられる戦争でないと、自分の方から開戦することはできないだろう。

 もう一つには、中国の経済はトータルのGDPでは日本を抜いているものの(日本の2倍以上)、1人当たりのGDPとなると世界ランキングで80位前後。貧富の格差が激しいのだ。おまけに党幹部の底なしの腐敗問題を解決することに手詰まりを覚えている。逮捕しても逮捕しても尽きることなく蔓延し過ぎている。ここで戦争などが起きたら、一党支配体制は崩壊するだろう。

 第一列島線に空母「遼寧」が姿を現し、「つぎは第二列島線」と中国は豪語した。

 そして習近平国家主席はダボスでアメリカのバイデン副大統領と会談し、「オバマ政権時代、米中は新型大国として互いに認め合い仲良くやってきた」と述べた。新型大国関係をアメリカが認めたとは思えないが、中国としては第二列島線の東の太平洋をアメリカが、西の太平洋を中国が、それぞれ「制覇する」という形のパワーバランスを夢見てきた。

 しかし、そのアメリカが「一つの中国」原則をめぐって中国と対立し、せっかく蜜月を演じてきたロシアのプーチン大統領をトランプ大統領が「受け入れる」とすれば、日米同盟が揺るがないという条件の下で、日米露三カ国による「対中包囲網」ができ上がる可能性がある。

 外交安全政策に関して、中国はいま、弱い立場にあるのである。

 オバマ政権の延長線(ヒラリー・クリントン政権)だったとしたら、こういう事態は起きていなかっただろう。

 その意味では、「中国をのさばらせてきた」アメリカが、責任を取る形になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権の医薬品関税発表は数週間先か、他の政策課題優

ワールド

米財務長官「一連の利下げ可能」、雇用悪化が9月大幅

ワールド

トランプ氏、ロシアが和平阻害なら「深刻な結果」 3

ビジネス

アングル:日本株の「ニューノーマル」、PER20倍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ「衝撃の物体」にSNS震撼、13歳の娘は答えを知っていた
  • 3
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が教える「長女症候群」からの抜け出し方
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    マスクの7年越しの夢...テスラ初の「近未来ダイナー…
  • 7
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 8
    トランプ「首都に州兵を投入する!」...ワシントンD.…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 7
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中