最新記事

女性問題

少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルーン出身の被害者語る

2017年1月5日(木)19時30分
ルーシー・クラーク・ビリングズ

カメルーンの学校に通っていた頃のビクトリン・ンガムシャ VICKY NGAMSHA/NEWSWEEK

<女性の性にまつわる忌まわしい慣習は性器切除だけではない。被害者が本誌に語った「胸アイロン」という残忍なレイプ回避法>

 日曜の教会の帰り、叔母に「お前の胸をどうにかしなくては」と言われたとき、ビクトリン(ビッキー)・ンガムシャは12歳だった。43歳になった今でも、ビッキーは叔母の次の言葉を覚えている。「大きくなりすぎたんだよ。こっちにきなさい」

 帰宅すると、叔母はビッキーのシャツを脱がせて座らせた。「あの時は家にいるのは女ばかりだったから、裸になるのは大して気にならなかった」と、西アフリカのカメルーン北西の町、キアン出身のビッキーは振り返る。「叔母は大きなコーヒーの葉っぱを数枚、焼石の上に置いた。そして熱々になった葉っぱを私の胸に押し当てた」

 イギリスのバーミンガムに移住して12年になるビッキーは、人生初となったあの日の経験が「ブレスト・アイロン(胸アイロン)」と呼ばれる処置だったことを、今でこそ知っている。熱した石やハンマーなどを、少女の胸に押し当てたりマッサージに使ったりして、胸の成長を止めるのだ。

忌まわしい慣習

 カメルーンの女性人権団体RENATAの2006年度の報告書やドイツ国際協力公社(GIZ)の調査によると、カメルーンで胸アイロンの犠牲者になる少女は4人に1人に上る。米タフツ大学のファインスタイン国際センターは2012年、同様の慣習は、ベニン、チャド、コートジボワール、ギニアビサウ、ギニア、ケニヤ、トーゴ、ジンバブエを含む西アフリカや中央アフリカ諸国の広い範囲で行われているとする調査報告書を発表した。その中でもカメルーンは断トツに被害が多い。

【参考記事】レイプ事件を隠ぺいした大学町が問いかけるアメリカの良心

 英下院議員のジェイク・ベリーは、胸アイロンは移民を通じてイギリス国内でも広がっているが、公式な記録やデータがないために問題の実態が覆い隠されていると指摘する。

【参考記事】中国で性奴隷にされる脱北女性

 3月8日の国際女性デーを記念して下院で演説をしたベリーは、バーミンガムやロンドンなどイギリスの都市圏に広がる西アフリカ出身者のコミュニティーでは、何千人もの少女が胸アイロンという「忌まわしい」慣習の犠牲になっていると訴えた。ベリーが全国のあらゆる警察署や行政機関に文書を送り、この問題にどのような対策を講じているか問い合わせた結果、警察署の72%が「胸アイロンの件については未回答、もしくはその言葉自体を聞いたことがない」と回答した。

【参考記事】夫が家事を分担しない日本では、働く女性の不満は高まるばかり

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用

ビジネス

円債残高を積み増し、ヘッジ外債は縮小継続へ=太陽生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中