最新記事

女性問題

少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルーン出身の被害者語る

2017年1月5日(木)19時30分
ルーシー・クラーク・ビリングズ

webw170105-breast02.jpg
昨年、本誌に体験を語ったビクトリン・ンガムシャ VICKY NGAMSHA/NEWSWEEK

 ビッキーは、イギリスの警察が胸アイロンについて知らなくても驚かない。カメルーンでは、「女性に関する問題」に当局が口出ししないのは当たり前だ。彼女は10歳の時、近所の男にレイプされた。犯人は逮捕されず、何のお咎めも受けなかった。

「コーヒー畑で遊んでいたら、身なりの良い男が近づいてきて、もし言うことをきかなければ妹のように死ぬぞと脅した」。実際、ビッキーは兄弟姉妹のうち6人を栄養失調で失くしていた。「当時は10歳だったから、何も知らなかった。男は私を地面に倒してレイプした」

「その後、脚の間から血を流しながら母のところへ行くと、母は『おてんば娘ね、オレンジの木に登って怪我をしたのだろう』と言った。何が起きたか母に打ち明けると、母の目に涙が溢れた」

 ビッキーが子どもの頃に性的暴行の犠牲になったのは、この時だけではない。だがこの時初めて、女性でいる限り安全ではないのだと悟った。そして少女から大人の女性へと体が成長するにつれ、不安に苛まれるようになった。

 思春期の少女に対して胸アイロンが行われるのは、多くの場合、男たちの性的対象から遠ざけるためだ。目的は、結婚前の望まない妊娠やレイプ、性的被害に遭わないようにすること。思春期の少女が性的虐待の標的になりつつあるという恐れが生じた段階で、母親か祖母や叔母など女性の親類が処置をする。

性器切除は知られているのに

 叔母が教会からビッキーを家に連れて帰り、初めて胸アイロンを押し当てたのは、ビッキーが12歳でちょうど思春期に差し掛かった頃だった。泣いた記憶はないが、熱した葉っぱが素肌に当たり、焼けるように痛かったのを覚えている。「すごく熱かった。でも叔母はこうすれば美しくなれると言った」

 ビッキーは自分のレイプ被害が胸アイロンの直接の引き金になったとは言わないが、少なくともその慣習を自己防衛の一種として認めていた。処置は繰り返され、何回だったかは記憶にないという。

「苦労が多くみすぼらしかった」という子ども時代を過ごしたベッキーは、その後結婚し、夫の仕事の都合で12年前にイギリスへ移住した。

 だがイギリスでは胸アイロンはいまだ認知されておらず、政府や行政機関による見解はないに等しい。女性器切除(FGM)については昨年7月、初の年次統計が発表され、イングランドで年間5700件のFGM被害が報告されたのとは大きな違いだ。

 そうした行為を、単に宗教や文化的な動機に基づく女性への暴力行為として記録する警察当局のやり方は生ぬるいと、ベリーは主張する。イギリスでは1985年以降、FGMには特定の刑事罰を科し、2015年に厳罰化もした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中