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リーダーシップ

部下の話を聞かない人は本当のリーダーではない

2016年10月28日(金)06時22分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

「お山の大将」でないかを確認する5つの質問

 カプランのマネジメント研修に参加したIT起業家ウィリアムが、まさにこのタイプだった。数年前に立ち上げたソフトウェア開発企業の売上高が2500万ドルを超えるなど、ウィリアムはCEOとして順風満帆のように見えた。だがマーケットシェアが落ち込んでいたり競合他社に取引を奪われたりと、会社の将来を案じていた。

 そこでカプランが「幹部社員たちはどう思っているのか?」とウィリアムに聞いてみると、「彼らも分からないようなんです」との答え。「むしろ私の考えを知りたがり、私からの指示を待っています」

 しかし、共同経営者のジムに話を聞くと、状況はまったく違っていた。「ウィリアムは何でも知っているつもりなんです」とジムは不満をぶちまけた。「質問しておきながら、こちらの話を途中で遮って、最後まで言わせてくれません。辛辣な批判を浴びせてくるので、結局みんなはウィリアムがどうしたいかを推し量って、彼の望み通りのことを言わされます」

 このときウィリアムに必要だったのは、「リーダーシップスタイルの修正」だった。部下に指示を出すことだけがリーダーシップではない。部下に相談して彼らの意見を聞き、時にそれを採用することもまたリーダーシップだ。

 カプランはウィリアムに幹部社員を集めて会議を開くようアドバイスした。「彼らに議論させ、あなたは黙って話を聞いていてください。議論を遮らず、結論も出してはいけません」

 数日後、ジムに会うと、「あんなリーダーらしいウィリアムは見たことありませんよ」と満足気だったという。

 リーダーは常に、一歩引いて自分を客観的に見つめ直す習慣を身につけるべきだ。「自分が一番正しい」と思い込んでいる人は周りが見えていないため、孤立していることにも気づいていない。視野が狭まっているあまり、自分は部下に慕われていると勘違いしている人さえいるから始末が悪い。イエスマンばかりに囲まれた、「お山の大将」状態だ。

 人の上に立っている人は、自問してみてほしい。

●部下の話を遮らずに聞いているか
●助けが必要なときには正直にアドバイスを求めているか
●部下を信じて仕事を任せているか
●自分の盲点や落ち度を面と向かって指摘してくれる「腹心の友」はいるか
●批判を受け入れる器の大きさはあるか

 2つ以上当てはまる人は黄色信号。陰では「独裁者」呼ばわりされて、哀れな孤立に陥っているかもしれない。

 果たして自分は孤立に陥っていないか。経営者マインドをきちんと持てているか。今の地位や肩書きに関係なく、自らの「リーダーシップ」という技術を再点検し、あるいは新たに習得するのに、本書は役立つかもしれない。


『「自分の殻」を打ち破る
 ハーバードのリーダーシップ講義』
 ロバート・スティーヴン・カプラン 著
 福井久美子 訳
 CCCメディアハウス


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