最新記事

アメリカ政治

なぜビル・クリントンは優れた為政者と評価されているのか

2016年10月20日(木)11時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 クリントン政権の後期、アメリカはIT産業を起爆剤とする空前の好況に沸いた。「この好況は永続し、もはや景気後退は生じないのではないか」、アメリカ人の多くがそんな楽観論を抱いたほどの好景気だった。

 思えば、クリントンが大統領に就任した93年当時、アメリカ政府は巨額の累積債務を抱え、日本などとのあいだに貿易赤字も発生しており苦しみ喘いでいた。この疲弊の極みにあったアメリカ経済を僅かな期間で建て直すことに成功したクリントンの手腕を高く評価する声は根強い。

 外交・安全保障分野でも、クリントンは旧ユーゴスラビア、北アイルランド、パレスチナなどで紛争調停の仲介役を積極的に引き受け、欧州やアジア太平洋地域で同盟関係をポスト冷戦期のリアリティに応じて見直すなどの成果をあげた。ポスト冷戦期の国際社会に忍び寄るテロの脅威や、気候変動問題への対策の重要性を早くから認識していた点でも、クリントンには先見の明が備わっていた。

 アーカンソー州リトル・ロックにあるクリントン大統領図書館はアーカンソー川を望む広大な敷地に建てられている。その建物は巨大な長方形であり、あたかも「橋」のような形をしている。

 これは、クリントンが第2次就任演説で用いたスローガン、「21世紀への架け橋」をモチーフとしたものである。

 クリントンは決してスキャンダルを起こしただけの政治家ではなく、内政・外交両面で後世に語り継がれる功績をあげ、アメリカを新世紀へと架橋した優れた為政者であったと認められている。

 クリントンの評価はいまなお上昇傾向にあり、その名はもはや民主党支持者に安心と安定を与える「優良ブランド」になった感さえある。

 2016年6月7日、民主党の大統領候補に内定したヒラリー・クリントンが「もう1人のクリントン」として早くから注目されてきたのも、こうした背景によるところが大きい。

【参考記事】元大統領の正しい使い方

 以上のような多様な要因を考慮することなくして、クリントンを語ることはできない。本書では、クリントンという政治家の持つ多様な顔を検討することを通じて、彼の全貌を描き出していく。

 クリントンが大統領に就任した90年代初頭、アメリカは国内で経済不況、国外で冷戦の終焉という大きな変化に直面していた。クリントンは大統領として、国内外の変化にどのように対応したのだろうか。また、クリントンはアメリカ政治にどのような「遺産」を残したのだろうか。

 クリントンの全貌を描くことは、90年代のアメリカ政治の全体像を描く作業であるとともに、現在のアメリカ政治を歴史的文脈に位置付けて考える作業でもある。

※シリーズ第2回:ビル・クリントンの人種観と複雑な幼少期の家庭環境


『ビル・クリントン――停滞するアメリカをいかに建て直したか』
 西川 賢 著
 中公新書


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大

ビジネス

訂正-独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9

ビジネス

リクルートHD、純利益予想を上方修正 米国は求人需

ビジネス

訂正-〔アングル〕米アマゾン、オープンAIとの新規
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中