最新記事

ウイグル人

中国を捨てて、いざ「イスラム国」へ

2016年8月18日(木)18時00分
べサニー・アレン・イブラヒミアン

 さらに彼らの70%は、ISISに加わるまで一度も中国から出たことがないと回答した。このことは、彼らが東トルキスタンイスラム運動(ETIM)のような「以前から中国内で活動していたイスラム系分離独立派の組織」とは無関係であることを示唆していると、ローゼンブラットは言う(ちなみにETIMについては、中国だけでなくアメリカもテロ組織と認定している)。

 ジハードに無縁でETIMとも関係ないのだとすれば、彼らは他の一般的な外国人戦闘員と比べて宗教色が薄いと考えられる。むしろ「中国内では得られない一種の帰属意識を求めている」のだろうと、ローゼンブラットは指摘する。

 ウイグル人は1000年以上前から今の土地に暮らしているが、すんなりと中国(漢民族)の支配を受け入れてきたわけではない。1930年代と40年代にはソ連の後押しで共和国を樹立したし(ただし短命に終わった)、中国共産党の支配下でも小規模な反乱を繰り返してきた。そして中央政府の統制強化と社会・経済的な「漢民族化」の進んだ90年代以降、ウイグル人は対抗手段としてイスラムへの傾斜を強めるようになった。

【参考記事】トルコ政変は世界危機の号砲か

 事態が一気に悪化したのは09年以降だ。自治区の区都ウルムチでウイグル人と漢民族の大規模な衝突が発生し、200人近くが犠牲になった。

 中国政府はこの事件でイスラム過激派を声高に非難したが、国外の人権団体からは、中国政府の政治的・宗教的な抑圧と漢民族優遇の経済政策がウイグル人の居場所を奪っているとの批判が上がった。当局がイスラムの信仰生活(断食や礼拝、女性のベール着用など)を厳しく規制し、コーランの学習さえ制限してきたからだ。

 ISISの台頭は、新疆ウイグル自治区から中国各地に暴力が拡散していった時期とおおよそ重なる。例えば13年10月には、北京の観光名所・天安門広場近くで車が歩行者の集団に突っ込み、5人を殺害する事件が発生。これについては過激派集団ETIMが動画で犯行声明を出している。

過激派に頼るしかない

 14年3月には、大型の刃物を振りかざした覆面姿の男たち(後にウイグル人と判明)が中国南西部にある昆明市の鉄道駅で一般市民を襲撃し、約30人を殺害。無差別テロとして社会に大きな衝撃を与えた。翌年9月には複数の海外メディアが、自治区内の炭鉱が襲撃されて50人が犠牲になったと報じた。この炭鉱は漢民族が運営しており、対立するウイグル人による犯行とみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中