最新記事

南シナ海

どう動くのか中国、南シナ海の判決受け

2016年7月13日(水)17時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 そのことを知っている中国政府内部では「なんなら、国連海洋法条約加盟国から脱退してもいいんだよ」という意見がチラホラ出ている。

 実はアメリカは国連海洋法条約加盟国ではない(国連海洋法条約を批准していない)ので、中国では、アメリカの真似をして中国も脱退すれば、判決の拘束力は及ばないと考えている政府関係者もいる。

 アメリカと中国が参加していない国連海洋法条約など、完璧に骨抜きになるので、中国に対して実際的な拘束力を及ぼしてこないだろうという計算もないではない。

アメリカはかつて国際司法裁判所の判決を無視した――1986年のニカラグア事件


 実は1984年4月に、ニカラグアがアメリカの同国に対する軍事行動などの違法性を主張し損害賠償などを求めて国際司法裁判所にアメリカを提訴した。1986年6月に国際司法裁判所が判決を出して、アメリカの違法性を全面的に認定した。

 しかしアメリカは、国際司法裁判所には管轄権はないとして判決の有効性を認めず、賠償金の支払いも拒否した。

 結果、ニカラグアが安保理理事会にアメリカの判決不履行を提訴したが、アメリカは安保理常任理事国として拒否権を発動し、結局、そのままになった。

 1990年にニカラグアで選挙があり、新政権(アメリカの支援を受けていたチャモロ政権)が誕生すると、アメリカに判決履行を求める立場を転換し、ニカラグア新政権はアメリカに対する請求を取り下げたのである。その結果、国際司法裁判所は、1991年9月26日に「裁判終了」を宣言したのであった。

 中国が注目しているのは、かつてのアメリカのこの動き方である。

 特にアメリカはレーガン大統領当時、国連海洋法条約に反対だった。アメリカの安全保障と商業的な利益に損害を与えるというのが理由だった。だから最初は加盟していたのに脱退している。オバマ大統領は加盟(批准)に積極的だが、上院下院の保守派の抵抗勢力の賛同を得られないまま、こんにちに至っている。その意味でアメリカは、実は中国を責められる立場にはなく、中国はその弱点をしっかりつかんで、アメリカの真似をしようと虎視眈々と「なし崩し」を狙っているのである。

フィリピンのドゥテルテ新大統領は親中?

 フィリピンが中国を提訴したのはアキノ大統領時代だ。

 しかし今年6月30日、新しく選ばれたドゥテルテ大統領は、マラカニアン宮殿における就任式のあとの閣議で、「戦争を望まない。われわれに有利な判決が出ても中国と話し合う」という趣旨のことを語っている(ロイター報道)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中