最新記事

中国

ワンピース、キャプ翼、テトリス、辞書まで映画化!? 中国第3のバブルの実態

2016年6月21日(火)06時17分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 これらのケースではIPを獲得しても映画やゲームが実際には制作されなかったり、あるいは低品質の作品が作られてしまうことが多い。日本企業にはまとまった額のミニマム・ギャランティ(最低保証使用料)が支払われるものの、高品質な作品によってIPの価値を上げることは期待できない。焼き畑農業的なモデルとなってしまう。

 これまで中国企業はライセンス料不払いなど数々の問題を起こしてきた。日本のコンテンツホルダーの多くは、ミニマム・ギャランティさえ受け取れれば十分だとして、長期的なビジネスにしようとまでは考えていないという。「これでは急成長を続ける中国市場のポテンシャルを取り逃してしまいます」と柏口社長は危惧している。IPバブルの影響でミニマム・ギャランティの相場は高騰しているが、目先の金にとらわれず、信頼できる中国のパートナーと提携し、高品質のコンテンツで大ヒットを狙うという王道を目指して欲しいと訴えた。

中国政府もバブル過熱を懸念

 ある中国アニメ業界関係者は「IPバブルは中国にとって最後の宴」だと話していた。製造業、不動産業と続いた投資ブームの第三の波、最後の機会がコンテンツ業界なのだ、と。このチャンスをつかもうと巨額のマネーが流れ込んでいるわけだが、すでにバブルは危険な水準に達しているとも危惧されている。

 6月8日、中国証券監督管理委員会は動画配信企業・暴風集団による映画制作会社、ゲーム制作会社の買収案を不許可とした。IPの価値を過大に評価し、実際の利益や資産価値を大きく上回る買収価格を示したことが問題視された。

 また13日には、中国証券監督管理委員会は所属業種を「ネット金融、ゲーム、映像制作、バーチャルリアリティ」に変更しての新株発行を禁止する通達を公布した。不動産市場減速で経営不振のセメントメーカーが、所属業種を映像制作企業に変更、大物IP獲得を発表し株価をつり上げた上で新株発行......といった手口が横行していることを警戒したものだという。

 2015年、中国の映画興行収入は前年比49%増の440億元を記録した。前述した通り、米国に次ぐ世界2位の市場だ。ゲーム市場は23%増の222億ドルで世界一となった。中国のエンターテインメント市場は堅調な成長を続けており、日本企業にとっても見すごせない巨大市場である。その一方で、陰謀と投機マネーが飛び交い、さまざまな罠も仕掛けられたIP市場。いかにして罠をかいくぐって利益を手にするのか。日本企業の智慧と勇気が問われている。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中