最新記事

欧州

欧州ホームグロウンテロの背景(1) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く

2016年6月15日(水)15時48分
国末憲人(朝日新聞論説委員)※アステイオン84より転載

 以後も彼は、中東とフランス国内とを並行して見つめ、両者のつながりを確認しつつ、研究を続けてきた。その過程で、世界二〇カ国の言語に訳されて注目を集めたのが、二〇〇〇年に出版された『ジハード』(邦訳・産業図書)である。フランスではその前の九〇年代半ば、アルジェリアの過激派組織「武装イスラム集団」(GIA)によるテロが相次いでいた。それまでの三〇年にわたるイスラム主義の軌跡を振り返った同書で、ケペルはこれらのテロを、過激派の「勃興の象徴」ではなく、逆に「衰退の現れ」と読み解いた。

「その時、確かにイスラム過激派の一つの波は去りました。でも、私はまだ、事態を理解していなかった。別の波が待っていたとわかったのは、後になってのことでした」

 米同時多発テロが起きたのは、その翌年である。勢いを失ったはずの過激派が、なぜこのように派手な動きに転じたのか。それは、イスラム過激派の第一波とは異なる波が起きたからだと、ケペルは考えた。この時期を「ジハード」(聖戦)の大きな転換点と認識する見方は過激派内部にもあることもわかってきた。

 こうした分析をもとに、ケペルは二〇〇八年『テロと殉教』(邦訳・産業図書)を発表し、「ジハード」を三つの世代に分類する見方をまとめた。アフガニスタンでの対ソ闘争からアルジェリアでの過激派の衰退に至る波を「第一世代」、その後台頭した「アル・カーイダ」を中心とする動きを「第二世代」とし、その後現在まで続く「イスラム国」などの活動を第三世代と位置づけたのである。

【参考記事】テロを呼びかけるイスラームのニセ宗教権威

第一、第二世代の興亡

 ケペルが「第一世代」と呼ぶジハードは、ソ連による一九七九年のアフガニスタン侵攻に抵抗した武力闘争を始まりとする。アフガン紛争には、アラブ各国から義勇兵「ムジャーヒディーン」が集まり、ソ連を相手に戦った。

 ゲリラ戦を指揮したのが、パレスチナ人の宗教指導者アブドッラー・アッザーム(一九四一 ‐ 八九)である。ヨルダン川西岸ジェニーン近郊に生まれ、ダマスカス、カイロ、アンマンでイスラム法の研究を重ねた後、パキスタンを拠点に対ソ闘争に携わった。敵との一切の交渉を拒否し、民間の犠牲も厭わない強硬姿勢で知られた。

 彼は、第一世代ジハードのイデオローグと見なされる。指導者としての立場から、第二世代を率いるオサーマ・ビン・ラーディン、第三世代の理論家アブー・ムスアブ・スーリーらとも親交を結んだ。最終的にパキスタンで暗殺された。

 第一世代ジハードは、対ソ戦略を念頭に置く米国や、地域大国イランの影響力拡大を恐れるサウジアラビアから、金銭面や技術面で援助を受けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中