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北朝鮮

警官が「報復」と「餓死」におびえる社会

2016年5月23日(月)15時12分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

Jason Lee-REUTERS

<給料は少なく、遅配は日常茶飯事。副業は許されず、住民から巻き上げるワイロだけがたより。離婚したら餓死の危険すらある。それが、北朝鮮の保安員(警察官)たちの生活だ>

 北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」と警察「人民保安部」は、住民に対して強権をふるう二大治安機関だ。しかし、なぜか保安員(警察官)の家庭での立場が、弱くなっているという。

警察官一家惨殺事件

 保安員は、公務員だけに国家からもらえる給料がたよりだ。しかし、北朝鮮の平均月収は1500ウォン(22.5円)に過ぎず、コメ1キロ(4500ウォン)すら買えない。その給料さえも遅配は日常茶飯事だ。そこで、給料以外の貴重な収入源となるのが住民から巻き上げるワイロとなる。

 治安機関員の保安員でさえも、ワイロなしでは、生活が成り立たない。一方、庶民たちも、彼らの苦しい懐事情は重々承知しており「ワイロを要求するのも仕事のうち」ぐらいにとらえながら、少々のことは目をつぶる。

 ただし、権力をかさにきてワイロを要求していることには違いない。あまりにも行き過ぎると庶民から思わぬ「報復」を受ける。ここ数年、執拗にワイロを要求してきた保安員らが、待ち伏せされて殴打される事件が多発。せい惨な事件も発生している。

(参考記事:妻子まで惨殺の悲劇も...北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ

 また、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、すべての保安員がワイロにありつけているわけではないという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋は、「保安員は本来、国から充分な配給をもらえることになっている。国の規定では、コメ7割に雑穀3割を混ぜた配給がもらえるはずだが、規定どおりにもらえた試しがない」と語る。

 配給は、半年分を一度に受け取るが、コメではなくトウモロコシの粉だ。それも、運搬過程で横流しされ、手元に届く時には、3分の2に減少。さらに、半年分を受け取ったところで、長く保管できない。そこで保安員は、違法とわかっていながら、もらった配給のほとんどを市場に横流しする。しかし、市内の他の保安員も同時に受け取り、同時に横流しするため、安値で買い叩かれる。そして、収入も食糧もない保安員の家族は、たちまち飢えに苦しむ羽目になる。

バツイチ警察官の末路

 苦しい事情を抱える保安員が、生活のために庶民からワイロを巻き上げるのは、もはや北朝鮮の「社会構造」ともいえる。逆に言えば、ワイロにありつけない保安員の生活は苦しくならざるをえない。

「保安署の中でも護安課(交通課)、捜査課、監察課に勤務していれば、取り締まりの権限を持っているため、ワイロをせびりやすい。しかし、取り締まり権限のない部署に勤務している保安員は、そんな機会すらない」(RFAの情報筋)

 ワイロによる収入がなくても、上役から課せられた「上納金」は収めなければならない。そこで、妻たちが市場で商売し、その穴埋めをするはめになる。つまり「ワイロなし」で、「甲斐性なし」の保安員の一家の大黒柱は、その家の主婦たちというわけだ。

 こうした保安員の家庭では、夫婦げんかが絶えず、挙げ句の果てには、生活苦に耐えかねた妻が夫へ離婚を申し出る。保安員に限らず、北朝鮮で女房に捨てられた夫の末路は悲惨だ。給料だけでは食べていけず、生活力もない。商売したくても、男性には市場での商売が許可されていない。まさに、ないない尽くしで、バツイチ男性は「餓死の恐怖」に怯えなければならない。

(参考記事:「死の復讐」に怯える北朝鮮のバツイチ男性

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