最新記事

アメリカ経済

3Dプリンターがアメリカの製造業を救う

2016年5月13日(金)17時05分
ケビン・メイニー

 ナイキは今、シューズの大半をベトナムなどアジアの工場で製造している。シューズの製造コストに占める人件費の割合は極端に大きいから、メーカーが安い労働力を求めて国外に生産拠点を移すのは自然な流れだ。

 規模の経済を実現するため、ナイキは需要予測に基づいて巨大な工場で大量生産を行う。製品は輸送されて、世界中の小売店に並び、在庫は大量に廃棄される。膨大な無駄が出て輸送コストも高くつくが、それを差し引いてもメーカーは大きな利益を上げられる。

 仮にナイキのシューズが短時間で安く3Dプリンターで製造できたら、このビジネスモデルはどうなるだろう。

 小売店は在庫を持たないショールームになる。顧客が好みのシューズを選んだら、最寄りのプリンターにデザインファイルが送信されて、製造が開始される。顧客は完成品を直接受け取りに行くか配達してもらう。これなら無駄はなくなり輸送コストも節減でき、国外の巨大工場も、そこで働く低賃金の労働者も不要になる。

【参考記事】最適な色のファンデーションを「出力」する3Dプリンターはいかが?

 工場は消費の中心地近くの小規模施設になり、ナイキのような企業の役目はデザインとマーケティング、安定した品質の維持だけになる。3Dプリンターならデザインの細かな修正にも応じられるから、顧客の好みに合わせたカスタムメイドの製品作りもお手の物だ。

アジアの製造拠点には大打撃

 分散型製造方式では、輸送で排出される二酸化炭素は大幅に減る。アジアの製造拠点は大打撃を受け、ひいては国際政治における各国の力関係も変わるだろう。人の力で行っていた作業の多くが自動化されるため、製造業の雇用が先進国に戻ってくるわけではない。その代わりデザインや技術などの分野で新たな雇用が生まれるだろう。資金が外国に流出せず、国内で循環するようになるメリットもある。

【参考記事】「3Dプリンター食品」が食糧難を救う

 新技術の常で、3Dプリンターの成長曲線も最初は緩いだろうが、臨界点に達すると一気に普及する。今はスペアパーツなど単純な構造物しか成形できないが、次第に付加価値の高い製品を作れるようになるだろう。

 流れは止められない。3Dハブズなど数社の新興企業がサービスを開始し、シーメンスやゼネラル・エレクトリック(GE)など大手が支援に乗り出す。

 3Dプリンターでは今、アメリカが世界をリードしている。大統領選の某候補者に言いたい。「このままでは中国に負ける」とわめく暇があるなら、「世界の工場」に閑古鳥が鳴くよう、この成長を応援することだ。

[2016年5月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領府、再び青瓦台に 週内に移転完了

ビジネス

仏が次世代空母建造へ、シャルル・ドゴール後継 38

ワールド

原油先物は上昇、週末に米がベネズエラ沖で石油タンカ

ワールド

豪首相支持率が再選以来最低、銃乱射事件受け批判高ま
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中