最新記事

欧州難民問題

移民を阻む「壁」、EUでいかに築かれたか

欧州各国は5億ユーロの予算で1200キロに及ぶ移民防止フェンスを建設

2016年4月11日(月)10時16分

 4月4日、移民・難民の流入を防ぐために障壁を築いたEU加盟国は10を超える。子どもたちが3分の1を占める移民・難民1万人以上が、フェンス近くの粗末なテントで暮らしている。ギリシャのイドメニ付近で3月撮影(2016年 ロイター/Marko Djurica/Files)

 欧州連合(EU)委員会のアブラモプロス委員(移民・内務 担当)は先月初め、ぬかるみに苦労しつつ、マケドニア国境沿いにあるギリシャの難民キャンプを視察。数万人の難民を足止めし、北に広がる豊かな国々への進路を阻む、有刺鉄線を張りめぐらせたフェンスを見つめた。

「フェンスを築き、有刺鉄線を張りめぐらせても、解決にはならない」とアブラモプロス氏は言う。

 アブラモプロス氏はこれまで常にそのメッセージを声高に主張してきたわけではない。同氏の見解の変化は、2015年の初め以来、100万人以上の難民がギリシャの海岸に押し寄せるなかで欧州が巻き込まれた混乱を物語っている。

 2012年、アブラモプロス氏が国防相を務めていたギリシャは、トルコ国境沿いにフェンスを築き、電子監視システムを導入した。コンクリートと有刺鉄線による障壁と、2000名近く増員された国境警備員は、不法移民の急増を食い止めることを意図していた。

 62歳の元外交官であるアブラモプロス氏は、このプロジェクトには直接関与していない。だが同氏は2013年、この壁は成果を上げたと会見で発言し、プロジェクトを擁護した。「この方面からギリシャに流入する不法移民の数は、ほぼゼロになった」と彼は語った。

 移民危機に対する欧州の公式の対応は、ドイツのメルケル首相が昨年8月に提唱したように、各加盟国が協力し、特に戦火と迫害を逃れてきたシリア難民に避難所を提供する、というものである。

 だが現実は、ほとんどの加盟国が割当通りの難民を受け入れておらず、移民・難民の流入を防ぐために障壁を築いた国も10を超える。EUは現在、新規の難民をトルコに戻すことになる協定を導入しようと試みている。

 第2次世界大戦の瓦礫(がれき)から生まれたEUの基礎の一つは、加盟国間の移動の自由という原則である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中