最新記事

映画

欲と機転で金融危機をぶっ飛ばせ

2016年3月4日(金)16時00分
デーナ・スティーブンズ

 デフォルトの危機にいち早く気付くのはマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)。医者から金融トレーダーに転身したバーリは、社交性はゼロだが数字には異様に強く、ヘビメタ音楽を爆音で聴きつつはだしで仕事をする変わり者だ。

 ある日、不動産抵当証券の事例を調べていたバーリは、金融商品に組み込まれた住宅ローンの多くが焦げ付きそうなことを察知。サブプライムローン絡みの商品の破綻を見越して、投資銀行にCDS契約を持ち掛ける。銀行は彼の予測を鼻で笑いながらも契約に応じる。

 CDSで大ばくちをたくらむバーリの動きを嗅ぎ付けたベネットも、投資家にCDSを売り込む。投資家の1人ベン・リカート(ブラッド・ピット)は健康食品マニアの元銀行家だ。

【参考記事】AIG国有化、金融版「大量破壊兵器で」

 日和見主義と欲が渦巻く狂乱の金融界に少しでも正義に近い人間がいるとすれば、ヘッジファンド経営者のマーク・バウム(スティーブ・カレル)だろう。家庭で起きた不幸を振り切るように仕事に没頭する彼に、妻は仕事のペースを落として治療を受けるよう勧める。だがバウムは「この仕事が好き、好きなんだ!」と怒鳴り返す。

 ベネットが勧めるCDSに懐疑的なバウムは調査のため、住宅バブルに沸いているはずのマイアミへ。悪質な住宅抵当ローン業者に辟易し、差し押さえられた空き家のプールにワニがいるのを目撃した彼は、バブルの崩壊を確信する。自社の成功が国家の経済危機の裏返しであることを見抜いたバウムの物語は悲劇的な様相を帯びていく。

 CDSで巨万の富を得ても、自分が成功の踏み台にした金融商品の陰で無数の人々が仕事や家や金を失うのだ。モラルを解し、成功と良心の間で悩むバウム役で、カレルは存分に演技力を見せつけている。

笑いに徹した潔さが新鮮

 映画は「モラルハザード(倫理観の欠如)」や「複雑な金融商品」といった業界用語を分解し、醜い詐欺や窃盗、嘘をあぶり出す。ときおり公共広告のパロディーを挿入し、著名人に金融用語を平易な言葉で説明させる趣向が楽しい。女優のマーゴット・ロビーが風呂でシャンパン片手に難解な金融概念を説明し、有名シェフのアンソニー・ボーデインがサブプライムローンを「3日前の魚を何食わぬ顔でシチューに入れて、高い金を取るレストラン」になぞらえるといった具合だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中