最新記事

中朝関係

北朝鮮のミサイル発射のターゲットは中国か

中国高官の平壌訪問中に発射を忠告することで顔に泥を塗り、中国を「出口なき核ゲーム」に引きずり込もうとしている

2016年2月4日(木)15時37分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

暴走する金正恩政権の思惑 ミサイル発射実験の狙いはアメリカとの直接対話か、それとも中国に対する反発ゆえの行動なのか(1月27日、北京で北朝鮮問題について協議したジョン・ケリー米国務長官と中国の王毅外相) Jason Lee-REUTERS

 北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射実験を行うことを明らかにした。

 国際電気通信連合(ITU)によると、北朝鮮が2日、「地球観測衛星『光明星』を打ち上げる計画がある」と通告したという。打ち上げ期間は、2月8日から25日の午前7時(日本時間同7時半)から正午(同午後0時半)の間だ。人工衛星の打ち上げと称しているが、2012年の「銀河3号」と同じく、長距離弾道ミサイルの発射実験とみて間違いない。

(参考記事:モランボン楽団は金正恩氏の「ワナ」だった!?

 打ち上げ期間は、今月8日から25日となっている。発射日は天候にもよるが、人工衛星の名称「光明星」からも金正日総書記の誕生である2月16日(北朝鮮では「光明節」といわれている)前後が、最も可能性が高いと見られている。ちなみに、2012年12月12日の「銀河3号」の翌年、2013年の2月12日に第三次核実験を行っていることを鑑みると、12日周辺は最も警戒すべき日かもしれない。

 過去、北朝鮮はミサイル発射→核実験というパターンを繰り返してきた。今回は、先月6日の核実験が既に行われたことから、これまでにないパターンと見られている。一方で昨年には、実戦配備には時間がかかると見られているが、潜水艦弾道ミサイルの発射実験を3回行い、うち1回は成功している。いずれにせよ、北朝鮮は核とミサイルをワンセットで捉えながら米国をはじめとする国際社会にアピールする戦略であることに変わりはない。

(参考記事:【動画】北朝鮮、潜水艦ミサイル動画を公開...発射成功が確認される

 今後、各メディアは核実験と長距離弾道ミサイル発射について、「米国との対話が狙い」と、いつもながらの見立てを展開すると思われる。もちろん、北朝鮮が国家戦略の柱として米国との直接対話を狙っていることは間違いない。

 その一方、本欄では繰り返し指摘しているが、今回の核実験とミサイルは中国をターゲットにしているふしがみられる。狙いは、中国から経済支援を取り付けるというレベルのものではなく、中国を「出口なき核ゲーム」に引きずり込むためだ。核実験が「第一の矢」とすれば、ミサイル発射は「第二の矢」か。

 北朝鮮が、ITUに人工衛星打ち上げ計画を通告した2日、北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議で議長を務める中国の武大偉朝鮮半島問題特別代表が平壌を訪問していた。核問題について議論するためと見られるが、もちろん武大偉氏は、長距離弾道ミサイルの発射についてもやめるよう要求するはずだっただろう。

 しかし、北朝鮮はその当日にミサイル発射を通告。金正恩第一書記は、モランボン楽団公演キャンセルに引き続き、またもや中国の顔に泥を塗ってしまったわけだ。ここまでくると、偶然というよりも意図的とみるべきだ。

 武大偉氏が北朝鮮を訪れたということは、中国側にはなんとかして北朝鮮を手なずけたい、もしくは核とミサイルを断念させるためにアプローチしている姿勢を国際社会に見せたいという思惑があるように思われる。一方、北朝鮮側はそうした中国の思惑をことごとく裏切っている。

 中朝関係の修復は、当分の間は難しい。同時に、金正恩体制は自ら孤立の道を進もうとしている。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

ニュース速報

ビジネス

ホンダ、バブル期のスポーツ車10年ぶり復活 国内受

ワールド

トルコ軍、シリアに地上侵攻 対イスラム国で大規模軍

ワールド

アフガン首都で大学襲撃、1人死亡・20人超が負傷 

ビジネス

企業向けサービス価格、7月は前年比+0.4% 広告

MAGAZINE

特集:世界が期待するTOKYO

2016-8・30号(8/23発売)

リオ五輪の熱狂は4年後の東京大会へ── 世界は2020年のTOKYOに何を期待するのか

人気ランキング

  • 1

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 2

    イタリア中部地震で37人死亡、市長「生き物の気配がしない」

  • 3

    オリンピック最大の敗者は開催都市

  • 4

    イタリア中部M6.2の地震で少なくとも6人死亡、建物損壊で住民が下敷きに

  • 5

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 6

    自衛隊、安保法制に基づく駆け付け警護など「集団的自衛権」の訓練開始

  • 7

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 8

    氷河を堰き止めている棚氷が崩壊の危機

  • 9

    実情と乖離した日本の「共産主義礼賛」中国研究の破綻

  • 10

    リオ五輪閉幕、ブラジルを待ち構える厳しい現実

  • 1

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 2

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 3

    競泳金メダリストの強盗被害は器物損壊をごまかす狂言だった

  • 4

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 5

    オリンピック最大の敗者は開催都市

  • 6

    リオ五輪、英国のメダルラッシュが炙りだしたエリートスポーツの光と影

  • 7

    「ドーピング」に首まで浸かった中国という国家

  • 8

    リオ五輪でプロポーズが大流行 「ロマンチック」か「女性蔑視」か

  • 9

    希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか

  • 10

    中国を捨てて、いざ「イスラム国」へ

  • 1

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 2

    中国衝撃、尖閣漁船衝突

  • 3

    戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」

  • 4

    日銀は死んだ

  • 5

    フィリピンのドゥテルテ大統領が国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆

  • 6

    【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

  • 7

    トランプには「吐き気がする」──オランド仏大統領

  • 8

    イチロー3000本安打がアメリカで絶賛される理由

  • 9

    海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府

  • 10

    競泳金メダリストの強盗被害は器物損壊をごまかす狂言だった

 日本再発見 「世界で支持される日本式サービス」
 日本再発見 「世界で支持される日本式サービス」
Newsweek特別試写会2016初秋「ハドソン川の奇跡
アンケート調査
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

小幡 績

日銀は死んだ

STORIES ARCHIVE

  • 2016年8月
  • 2016年7月
  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月