最新記事

香港

「中国は弱かった!」香港サッカーブームの政治的背景

2015年11月19日(木)17時42分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 また、香港代表も試合前に演奏される国歌は中国と同じく義勇軍行進曲だが、「Hong Kong is not China」の精神を体現するべく、ここ数試合では国歌演奏中に香港人観客がブーイングをあげていた。国歌に対する侮辱としてFIFA(国際サッカー連盟)から罰金が科され、今後も同様の事態が続けば勝ち点剥奪などさらに重い処分が与えられると警告されていた。そのため17日の試合では国歌演奏中に「Boo」と書かれた紙を掲げたり、背中を向けたりという方法で抗議する姿も見られた。

予選敗退濃厚、なぜ中国代表は弱いのか

 さて、中国側から見ると、「国足」(中国代表)がまた失態をやらかしたということになる。中国代表は2002年に初のW杯出場を果たしたものの、その後は最終予選にすら進めない低迷が続いている。中国でサッカーはバスケットボールと並ぶ人気スポーツだが、レベルの高い欧州リーグがテレビ中継されるということもあって、「中国のレベルはひどい」と嘆くのが中国人サッカーファンの常だ。

 この状況を一転させると期待されたのが習近平国家主席の登場だった。習主席は大のサッカー好きとして知られ、先日の英国訪問でもプレミアリーグを視察したほど。「夢は中国代表をW杯で優勝させることだ」と公言してはばからない。

 すでに大々的な強化プランがスタートしている。2017年までに全国に2万校ものサッカー特色学校を設立する。小中高校の6~8%がサッカー特色学校に指定されるという。関連してサッカー専門教員の研修、専用スタジアムの建設が進められるほか、優秀な選手の欧州留学をサポートすることが決まった。

 またプロリーグである中国スーパーリーグのレベルアップのため、世界的なスター選手を招聘するよう各クラブに通達されている。サッカー好きの習主席の歓心を買うためといってはうがちすぎかもしれないが、中国のクラブは指示通り次々と有力選手を獲得している。トップチームである広州恒大クラブはすでに、AFCチャンピオンズリーグで優勝し、アジア最強の地位を確立した。

 とはいえ、これで中国サッカーが強化されるかどうかは未知数だ。そもそも中国スポーツの低迷には根本的な原因がある。旧ソ連同様、中国のスポーツはステートアマ育成に重点を置いていた。ステートアマとは国によって身分や生活を保障され、スポーツに専念できる環境を与えられた選手のことだ。個人がアマチュア選手としてスポーツに打ち込むわけでも、プロ選手としての成功を目指すわけでもない。政府の指示によってスポーツに取り組む選手を意味する。こうしたステートアマを育成するため、中国各地にスポーツ専門校が設立され、才能ある若者を子ども時代から練習漬けにしてトップ選手が育成された。

 国の栄誉のためにプレーするのはもちろんのこと、こうした強化には自治体のメンツ、地方官僚の政治的業績という側面もあった。全国運動会(日本の国体に相当)で自治体同士のメダル争いで勝利すれば、それは官僚の業績となる。メダル争いをするためには何十人もの選手で一つのメダルしか取れない球技よりも、個人種目のほうが効率的。そのため団体種目の強化は個人種目と比べておろそかになりがちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減

ワールド

米イラン核協議、3日予定の4回目会合延期 「米次第
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中