最新記事

中国政治

中国「反スパイ法」、習近平のもう一つの思惑

2015年10月2日(金)16時27分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 また新国家安全法が発布された今年7月1日からほどなくして(2015年7月10日に)、「なぜ江世俊のような漢奸の息子が、主席になったりできるの?」という見出しが「百度知道」に現れたのである。

 反スパイ法誕生前に、江世俊の履歴に関してはネット解禁となっていたが、その息子が「あの主席だよ」という明確な記述は避けていた。もちろん前述のピンイン表示による表現はあったが、それでも誰でもが疑問に思う「なぜ国家主席になったままでいいのか?」を、中国大陸のネット空間で発信した人はいなかった。発信してもすぐに削除された。それが今では削除されていないことに注目しなければならない。

 旧国家安全法から新国家安全法への移行過程では、江沢民の腹心であった周永康が牛耳っていた中共中央政法委員会への降格問題が重要な要素となっている。

 それは「チャイナ・ナイン」から「チャイナ・セブン」への移行の核心でもあった。胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会「9名」を習近平政権では「7名」にした最大の理由でもある。

 そのために中共中央政法系列も、習近平政権になって創設された「中央国家安全委員会」に統一され、習近平国家主席が一手に担うという、中央集権的色彩が濃厚となる結果を招いている。

 こういった流れの中での日本人の逮捕は、「中国の内部情勢に巻き込まれた」という印象を強く与える。これは一つの現象に過ぎなくて、中国で起ころうとしていることを見えなくするための「煙幕」のようなものだ。この煙幕は筆者が1948年に長春で中共軍による食糧封鎖を受けたときから直感している中国の掟だ。

 中国を外から概観せずに、内部情勢に入り込んで考察しなければ、日本の国益、ひいては日本国民を守ることさえできないと筆者が主張し続ける所以(ゆえん)でもある。

[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数

※当記事は >Yahoo!ニュース個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、アマゾン・オ

ワールド

ウクライナ東部の要衝ポクロウシクの攻防続く、ロシア

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中