最新記事

中国社会

歩きスマホ専用レーンの無意味さ

一見いいアイデアだが、ちょっと頭を使えばありえない交通規則

2014年9月26日(金)12時23分
ビル・パウエル(上海)

じゃあ作るな! 「自己責任で歩くこと」と書かれた歩きスマホ専用レーン China Daily-Reuters

 こんな対策で本当に事故が防げると思ったのだろうか。これでは逆に事故が起こるのを待っているようなものだろう。

 先週、重慶市の目抜き通りに、「携帯電話専用レーン」なるものが設置された。

 でも心配ご無用。車の運転手がスマートフォンを思う存分いじりながら運転できるレーンではない。あくまで「歩きスマホ」専用レーンだ。幅3メートルの歩道が中央分岐線で2つに分かれていて、一方が歩きスマホ用になっている。もう一方は歩きスマホをしない人用。レーンの全長は50メートルだ。

 目的は、携帯を見ながら歩いている人が、人とぶつかるのを防ぐためだという。もちろん歩きスマホをしている人同士の衝突は防げない。

 この新レーンが、どれほど市民の安全に貢献するのかは疑わしい。それよりも、歩きスマホをする人同士がぶつかって携帯を落として壊せば買い替え需要で売り上げが伸びる──世界最大の携帯市場でしのぎを削るサムスンやアップルなどのメーカーの陰謀があるのではないかと勘繰ってしまうほどだ。

 重慶市の担当者に話を聞くことはできなかったが、週末にこのレーンを歩いた地元のジャーナリストによると、歩きスマホをする多くの歩行者は新しく設置されたレーンを完全に無視していたという。 

 重慶市当局はこれから取り締まりを強化するのだろうか? 例えば、サウジアラビアで全身を覆うブルカを着用せずに歩いている女性を取り締まる宗教警察のように、「歩きスマホ警察」を配備するのかもしれない。サウジではむち打ち刑もあり得るらしいが、重慶ではそれはおそらくないだろう。

 残念ながら、こうしたいくつかの疑問に対して、市は沈黙したままだ。

 とりあえず、重慶市民やこの街を訪れる観光客はスマホなんかに気を取られず、顔を上げて歩いたほうがいいとだけ言っておこう。重慶は中国で最も景観が美しい地域の1つ、四川省への入り口なのだから。

[2014年9月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中