最新記事

プライバシー

徘徊者をGPSにつないだら

自閉症や認知症患者の安全を守る新たな試みの重い課題

2014年4月28日(月)12時33分
エリカ・ハヤサキ(カリフォルニア大学アーバイン校助教)

人権侵害? 徘徊する高齢者や障害児に追跡装置を付ける動きが Thanasis Zovoilis-Flickr/Getty Images

 テキサス州サンアントニオに住むケイシー・バザードが、プライバシー保護の重要性に目覚めたのは米自由人権協会(ACLU)に勤めていたときのこと。その仕事を辞めた後も、プライバシー保護はバザードのライフワークになった。

 学校が子供たちの指紋採取を求めたときは拒否したし、学校が発行するIDカードにマイクロチップを埋め込んで、生徒を追跡する計画が持ち上がったときは、他の保護者と共に反対運動を行った。

 だが今年1月、迷子になりやすい自閉症児のために、連邦政府の補助でGPS追跡装置を支給する法案が提出されたとき、バザードは反対する気になれなかった。3歳半になる娘キャロラインが自閉症で、言葉を話すことができないからだ。

 昨年の夏、キャロラインはいつの間にか自宅を出て、1区画先のプールまで行っていた。運良くプールはフェンスに囲まれていて、バザードはその前に立っているキャロラインを見つけることができた。

「母親としての本能が、『政府は市民を監視しているのでは』という政治的な懸念に勝った」と、バザードは語る。「私は娘を見つける手段が欲しい」

 米政府は既に、認知症患者向けの追跡装置に補助金を出している。具体的には司法省が警察や支援団体に補助金を交付し、これらの組織が追跡装置を購入して、希望する家族に支給する。1月に提出された法案は、この制度を自閉症児のいる家庭に拡大するものだ。

 法案は別名「アボンテ法案」と呼ばれる。昨年10月に学校を出たまま行方不明となり、1月に遺体となって発見されたニューヨークの自閉症の少年アボンテ・オクエンド(当時14歳)の名前を取ったものだ。

24時間監視はできない

 追跡装置にもいろいろな種類がある。迷子になった認知症患者の救援活動を行うNPOプロジェクト・ライフセーバーは、ブレスレットやペンダント型のGPS追跡装置を提供している。最近ではGPSを内蔵した靴も販売されている。

 プロジェクト・ライフセーバーが採用するシステムは、「安全圏」を設定することができる。着用者がそこから出ると、自動的に全米1300の法執行機関に通報される仕組みだ。このシステムのおかげで、これまでに延べ2800人の徘徊者が無事保護されたと、ジーン・ソンダーズCEOは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JAL、今期の純利益7.4%増の見通し 市場予想上

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中