最新記事

交通

公共交通の切り札は自転車

好きなときに好きな場所で自転車を借りられる公共システムづくりでワシントンが成功モデルに

2013年3月1日(金)15時41分
トム・バンダービルト(ジャーナリスト)

自転車首都 米ワシントンの自転車シェアリング事業を全米一の規模を誇る Andrew Harrer-Bloomberg/Getty Images

 アメリカでカーシェアリングならぬ「自転車シェアリング」が最もうまくいっている都市はどこか。ひと昔前なら先進的なシアトルやポートランドか、車なしでも活動しやすいサンフランシスコを思い浮かべただろう。しかし意外にも正解は──首都ワシントンだ。

 自転車シェアリングとはエリア内の各所に専用駐輪場を設置し、利用者が好きなときに好きな場所で自転車を借りたり返したりできるというシステムだ。

 ワシントンが「貸し自転車」天国になったそもそものきっかけは20年ほど前、ある図書館でのこと。バージニア大学で都市計画を学んでいたポール・デマイオはインターネットで調べ物をしていて、デンマークの首都コペンハーゲンの自転車シェアリング事業のことを知った。興味をそそられたデマイオは調査のため現地まで赴き、自転車シェアリングをテーマに修士論文をまとめた(しかし当時はこの論文が注目を集めることはなかった)。

 卒業後、デマイオはバージニア州アレクサンドリア市で道路政策に携わる一方、自転車シェアリングの事業案を温めていた。当時、欧州では自転車を見直す機運が高まり、パリやストックホルムで自転車シェアリングの利用者が増えていた。

 そんなある日、デマイオはワシントン交通局のジム・セバスチャンに「ヨーロッパでは屋外広告の媒体の1つとして、自転車シェアリング事業を利用している」という話をした。ちょうどワシントンでは、バス停の広告契約が更新時期を迎えていたこともあり、交通局はデマイオの案を試してみることにした。自転車100台、駐輪場10カ所というささやかな規模だった。

 こうして08年に始まったのが「スマートバイクDC」事業だ。だが自転車の台数も駐輪場の数も少な過ぎたせいで、この事業は大失敗に終わった。発案者のデマイオ自身、利用したのはほんの数回だったと語る。

 しかし、行政が収益事業として自転車シェアリングに取り組んだ全米初のケースだったこともあり、概念はそれなりに根付いた。そしてくしくもこの年にワシントンの交通局長に指名されたゲーブ・クラインは、カーシェアリング会社ジップカーの副社長を務めたことのある人物だった。

 クラインは大規模な自転車シェアリング事業の立ち上げを公約していた。「成功するかどうかは駐輪場の数に懸かっているということは分かっていた」とクラインは言う。

 参考にしたのはモントリオール(カナダ)の自転車シェアリング事業「ビクシー」だ。ワシントンの場合、駐輪場の設置は「建設事業と言っても過言ではなかった。何カ月もかかり、電気も引かなければならなかった」とクラインは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高、5月ー0.9%で予想以上の減少 コア

ビジネス

日産、3代目「リーフ」を米で今秋発売 航続距離など

ワールド

ロシア安保高官が今月2回目の訪朝、金総書記と会談 

ビジネス

アングル:日銀、経済下押しの程度を注視 年内利上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中