最新記事

交通

公共交通の切り札は自転車

2013年3月1日(金)15時41分
トム・バンダービルト(ジャーナリスト)

車に積んで自転車を移動

 だがビクシーの場合、駐輪場は組み立て式で容易に設置できる上、必要な電気は太陽光発電で賄っていた。クラインは周辺地域を巻き込んだ自転車シェアリング事業の立ち上げに向け、就任して間もないワシントンのエイドリアン・フェンティ市長をはじめ、各方面との話し合いを始めた。

 そして10年、新たな自転車シェアリング事業「キャピタル・バイクシェア」がスタートした。ワシントンとバージニア州にまたがるエリアをカバー。現在では約1700台の自転車と駐輪場200カ所近くを擁し、1日の延べ利用者数は8000人に達する。

 ワシントンの自転車シェアリング事業が規模の点でも利用者数でも全米一になったのにはいくつか理由がある。まず自転車を日常的に使っている人が比較的多く、自転車の利用拡大を訴える人々の活動も活発だったこと。若い世代の住民や観光客が多かったことも大きい。

 クラインに言わせれば、ワシントンが特別区で、州からとやかく言われることがないのも幸いした(彼によれば、横やりは主に連邦政府から入る)。

 では肝心の使い勝手はどうなのか。12月のある朝、私は実際にキャピタル・バイクシェアを利用してみた。ワシントンのユニオン駅で電車を降り、スマートフォンの専用アプリで検索したところ、駅から1ブロック離れた駐輪場に十分な数の自転車があると確認できた。駅前に駐輪場があればもっとよかったが、大した距離ではなかったし、支払いの手続きも簡単で、ものの数分で私は駐輪場にたどり着き、自転車に乗ることができた。

 皮肉なことに、自転車シェアリング事業で最も重要な役割を果たしているのは自動車の運転手だ。「車の運転を担当する従業員が一番多い」と、キャピタル・バイクシェアのゼネラルマネジャー、エリック・ギリランドは語る。

 というのも個々の利用者の移動に任せていては効率的に自転車を配置できないため、キャピタル・バイクシェアではトラックに積んでこまめに自転車を移動させる。朝には通勤客の乗ってきた自転車を受け入れるため、ワシントン中心部の駐輪場を空にする。自転車はその後、いったん郊外へと戻されるが、午後には帰宅ラッシュに備えて中心部に再び運ばれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中