最新記事

シリア

ホウラ大虐殺で一線を超えたシリア

昨年からの反体制活動で死者は9000人以上。国際社会はいつになったらアサド政権を止めるのか

2012年6月1日(金)16時43分
ピリヤンカ・ボガニ

世界の目の前で 至近距離で撃たれた遺体も(国連監視団に遺体を見せる住民、5月26日) Reuters

 シリア西部のホウラで先週末、多数の女性や子供を含む民間人108人が殺害される事件が起きた。シリア政府は5月31日、虐殺は反体制派が行ったものだという暫定調査結果を発表した。

 首都ダマスカスで行われた記者会見で、調査委員会の責任者であるカセム・ジャマル・スレイマン准将は、犠牲者は「反政府行動を拒否したり、反政府武装勢力と対立していた人々だ」と述べた。スレイマンによれば、600〜800人の男がフーラにいた治安部隊を襲い、別の武装した男たちが住民を殺害した。犠牲者の中には、議員の親族も含まれていたという。

「(虐殺の)目的は、シリアに対する外国の軍事介入を何としてでも実現させることだ」と、スレイマンは指摘した。

 だが、イギリスが本拠の「シリア人権監視団」とシリア反体制組織「地域調整委員会」によれば、31日に自動小銃と迫撃砲でホウラを攻撃してきたのは政府軍だという。先週の虐殺に続き2度目だ。ホウラの住民が逃げ惑うなか、少なくとも1人の若い男性が狙撃されて亡くなった。

 反体制活動家たちは、ホウラ虐殺事件は政府軍と政府系民兵組織「シャビハ」のしわざだと語っている。BBCの特派員ポール・ウッドはこう述べる。「パターンはこうだ。反体制派の支配地域を政府軍が砲撃し、そこに民兵組織シャビハが入っていって人々を殺す」

国連監視団は単なる目撃者か

 国連平和維持活動局のエルベ・ラドスー局長も、シャビハが虐殺に関与した「強い疑い」があると述べている。独ベルリンを拠点とする反体制組織「シリア国民評議会」のホザン・イブラヒムは国際放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、アサド政権の下でシャビハは抗議行動を鎮圧し、反体制派を殺す道具になっている、と語った。

 国連が最近発表した報告書によれば、シリアでは昨年から続く反政府抗議行動の中で9000人以上が犠牲になっている。また300人近い規模の国連停戦監視団が派遣されているが、停戦調停は成功していない。

 潘基文(バン・キムン)国連事務総長は31日、トルコのイスタンブールで講演し、国連監視団は「罪のない人々の大量殺戮の証人となるためだけに」、シリアに派遣されているのではないと語った。ホウラ虐殺事件を機に「シリアは内戦に突入しかねない。そうなれば、あの国は二度と立ち直れないだろう」とも述べた。

 国連人権理事会は6月1日、シリア情勢についての特別会合を開く。ロイターの報道では、同理事会はホウラ虐殺の「国連による徹底調査」を求める予定だ。しかしEU諸国は、その決議を支持しないだろう。シリア政府に十分な打撃を与えるものではない、との懸念があるからだ。「そんな文面では弱すぎる、というのが全般的な意見だ」と、ある中東の外交官はロイターに語っている。

 今や、国連の停戦仲介は失敗するとの見方も出てきた。ホウラ虐殺が恐ろしい転機とならないよう、国際社会はプランBを考えなければならない。

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バイナンス、共同創業者イー・ハー氏とテン氏の二重指

ビジネス

英HSBC、ネルソン暫定会長が正式に会長就任 異例

ワールド

ハマスが2日に引き渡した遺体、人質のものではない=

ワールド

トランプ氏が台湾保証実施法案に署名、台湾が謝意 中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中