最新記事

アフガニスタン

カルザイは「悪魔に買収」されていた?

カルザイの立場なら、相手がイランでも喜んで裏金を受け取るのが当たり前。それに驚くナイーブさのほうが驚きだ

2010年10月27日(水)18時04分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

 アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領がイランから「バッグいっぱいの」大金を受け取っていたことがニューヨーク・タイムズ紙の報道で発覚したが、さてさて、この事態をどう判断すればいいだろうか。カルザイがイラン高官から受け取った現金は、年間100万ドルに上るとも報じられている。

 現金の授受を仲介したカルザイの補佐官ウマル・ダウザイも、近頃は羽振りがいいようだ。報道によれば、ドバイやカナダなどに計6軒の家を所有しているという。なかなかおいしい仕事だ。

 この状況は驚くにはあたらない。ましてやイランがアフガニスタンを卑劣な手段で支配しようとしている証拠だなどとも思えない。両国が長い国境を接していることを考えれば、イランがアフガニスタンの行く末に大きな関心を寄せているのは当然だ。アフガニスタン政府に対する影響力をまったく狙っていないとしたら、そのほうが驚きだろう(アメリカだって他国への影響力拡大を狙って援助金を出しているではないか)。

 イランの動向を心から懸念している人は、むしろ喜んだほうがいいかもしれない。イランはこれほどの大金を、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラに横流しする武器の購入にあてるのではなく、カルザイに送ることを選んだのだから。

 今回の報道で気付かされるのは、カルザイたちは彼ら独自の利害を持っており、それが必ずしもアメリカの利害とは一致しない、ということだ。これまでのアフガニスタン戦争の経緯や国内の政治権力闘争、アフガニスタンの地理的な意味を考えれば、誰からでも裏金を受け取ろうとするカルザイの態度は、容易に理解できる。

 おそらく彼は、アフガニスタン国内で権力を維持するために必要なものを、われわれよりも心得ているに違いない。部族長たちと交渉するときも、政敵を買収するときも、すべてが失敗に終わって逃走する羽目になったときにも、大金を保有しているメリットは計り知れない。カルザイ政権がアメリカにとって頼もしい忠実な同盟だなどという幻想を今回の報道が一掃してくれるのなら、それもまたいいことだ。

賄賂の外交効果は疑わしい

 もっとも重要なことだが、イラン政府がこのカネで大きな成果を得ることができるかどうかは、はっきりしない。外国のリーダーに賄賂を渡すのは、外交戦略として効果が疑わしい。カネを受け取る側の利害が変化したとき、カネを出してくれた相手にいつまでも従うという保証はないからだ。

 さらに、これまで大国が何度も経験してきたように、外国政府に大金を援助するのは逆効果になりかねない。大金を投じた後で支援目的が達成できなければメンツを失うため、「重要過ぎて失敗させられない」状況に追い込まれてしまうからだ。

 アメリカがアフガニスタン(とパキスタン)で経験したことも、多かれ少なかれこのケースに当てはまる。アメリカはカルザイに何としても失敗してほしくない。だからカルザイは、アメリカからクビを切られることも米軍が撤退してしまうことも気にせずに、堂々とアメリカに反抗できる。

 外国政府を本気で買収したいのなら、年間100万ドルなどというのはほんのはした金に過ぎない。イランがこの賄賂で、アフガニスタンにおける永続的な影響力を獲得できると思っているのだとしたら、愚かな話だ。

 古い格言にもある。「外国の政治家を買うことはできない。できるのは彼らをほんの一時レンタルすることだけだ」

Reprinted with permission from Stephen M Walt's blog27/10/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テマセク、運用資産が過去最高 米国リスクは峠越えた

ワールド

マレーシア、対米関税交渉で「レッドライン」は越えず

ビジネス

工作機械受注、6月は0.5%減、9カ月ぶりマイナス

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中