最新記事

北朝鮮

金ジョンウンは鄧小平になれるか

金正日総書記から朝鮮人民軍大将の称号を受けた若き三男は、改革開放路線に舵を切ることを期待されているが──

2010年9月28日(火)18時11分
ブラッドリー・マーティン

次の将軍 ジョンウンが後継者として北朝鮮を率いる日も近い? Jo Yong-Hak-Reuters

 北朝鮮で9月28日、朝鮮労働党の党代表者会が開会した。これに先立ち、金正日総書記が三男ジョンウンに「朝鮮人民軍大将」の称号を与えたため、ジョンウンが後継者に選ばれるとの憶測がさらに高まっている。

 ただ、この若い三男には少し同情を禁じえない。まだ20歳代で能力が未知数である金ジョンウンは、新たな世代の金王朝支配がスタートすることを支持するよう人民を説得しなければならない。

 十数年にわたる経済的な低迷に耐えてきた北朝鮮人民の間には、北朝鮮版の「鄧小平」(中国を市場経済化した指導者)の下で新たなスタートを切る必要があると考える人が増えている。

 最近の大きな失政として、昨年秋のデノミ(通貨呼称単位の変更)が挙げられる。増加傾向にあった自由市場的な交易をする人たちの財産を没収したことで、人民から大きな怒りを買った。政府は謝罪をするだけでなく、切り下げに関わった高官を処刑する必要に迫られた、と報じられている。

主体思想の継続なら不満が強まる

 この出来事で、人民の不満に対して迅速かつ効果的な対応をしたり、体制崩壊につながる悪循環に陥らないようにしたりするプレッシャーが政府に対してさらに強まった。新政権が金正日の反資本主義、反グローバリゼーション、そして「主体(チュチェ)思想」の経済政策を継続することを選べば、人民の不満は再び強まる可能性がある。

「さらなる失政と政策変更があるだろう──世界中の情報機関は今後、さらに情勢を注視しなければならない」と、北朝鮮政府の崩壊シナリオをまとめ、最近まで米韓軍司令部のアドバイザーを務めたロバート・コリンズは言う。

 8月末に観光客として北朝鮮を訪れたある韓国系アメリカ人女性によると、現政権の支配が終了すれば、後継体制を選ぶための「選挙」に金ジョンウンが出馬すると、平壌在住のガイドから言われたと言う。「ガイドは、ジョンウンが金正日の息子であることには触れずに話した。私が金ジョンウンは誰なのかと聞いたところ、彼は『金ジョンウンはとても頭脳明晰で、まるで父である金正日のようだ』と言った」

 一部報道によると、金ジョンウンと次男の二人は、将来の指導者になるために不可欠とされている5年間の特別な政治軍事課程を修了している。

もう1人のキーマン張成沢

 まだ見えてこないのは、若きジョンウンが鄧小平のように経済の「改革解放」に舵を切るかどうかだ。毛沢東とは血縁関係の無い鄧小平は、改革開放を進めるまでに過激な反資本主義者だった毛が「死ぬ」のを待たなければならなかった。

 最近、軍部と治安組織、そして党で権力のある地位に就いた金総書記の義弟でジョンウンの叔父に当たる張成沢(チャン・ソンテク)に対して淡い期待を寄せる人たちもいる。政権の要職についている張は、経験の浅い後継者を守り、指導する役割を担うかもしれない。確かに、張には国際貿易などそれなりのビジネス経験があり、中国高官らとも良好な関係を築いているとの評判がある。

 ただ、残念ながら張には利己主義と汚職の実績もあり、現体制でかなりの利益を享受している。また、人民の生活を真剣に改善するための劇的な政策変更にあまり賛同していないようだ。つまり、ジョンウンも張も、鄧小平のような存在にはなれない可能性が高い。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで下落、日本政府は介入の有

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中